【人事向け】有給休暇を年5日取得できなかった場合どうする? 罰則や送検事例と確実に取得させる方法も解説

【人事向け】有給休暇を年5日取得できなかった場合どうする? 罰則や送検事例と確実に取得させる方法も解説

2019年の法改正により、企業には「年5日分の有給休暇を取得させる義務」が課されました。対象となる社員が5日間の有給を取得できなかった場合、企業には罰則が科されます。実際に、有給休暇の取得に関する義務を怠った企業が送検された事例もあります。

従業員が有給を年5日取得できなかった場合、人事労務担当者としてどのように対応したら良いでしょうか。

本記事では、有給休暇の年5日取得義務の概要から、取得できなかった場合に企業が問われる責任、実際にあった送検事例までを紹介します。有給休暇を確実に取得してもらうために参考にしてください。

▼まずは有給休暇の年5日取得義務について深く知るには、以下の記事よりご確認ください。

有給休暇の年5日取得義務【罰則はいつから】中途の扱いや労働基準法の規定を解説

目次アイコン目次

    有給休暇を年5日取得できなかった場合の罰則

    従業員が有給休暇を年5日取得できなかった場合、労働基準法第39条第7項違反として、労働基準法第120条の罰則規定に基づき30万円以下の罰金が科せられます。罰金は対象となる従業員1人あたりの金額です。

    たとえば、有給休暇を年5日取得できなかった従業員が3人いる場合、罰金額は最大90万円となります。

    ただし、よほど悪質な場合を除き、すぐに罰則が科せられるケースはとてもまれです。多くの場合、まずは労働基準監督署による是正勧告が行われ、それでも企業が違反を繰り返すと罰金刑が科されます。

    参照:『年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説』厚生労働省

    有給休暇を年5日取得できなかった場合の送検事例

    有給休暇の取得をめぐっては、しばしば経営者が書類送検される事態に発展しています。年5日取得できなかったからといって、すぐに送検されるわけではありませんが、リスクを低く見積もるのは危険に感じられる方もいますよね。

    以下では、実際にどのような違反で送検されたのか、具体的な事例を紹介します。

    • 有給休暇の時季指定を怠った
    • 有給休暇を年5日取得させていると虚偽報告をした
    • 従業員からの有給休暇の取得申請に応じなかった

    有給休暇の時季指定を怠った

    経営不振を理由に、有給休暇を年10日以上付与される従業員全員に対して時季指定を怠った事例です。年5日の有給休暇を取得させなかったとして、会社と代表者が労働基準法第39条違反により送検されました。労働基準監督署の是正勧告を受けても改善の意思が見られず、書類送検されたようです。従業員から有給申請があっても、ほぼ受理せず、欠勤として処理していたといいます。

    さらに、同社では従業員が退職前に取得した有給休暇分の賃金の一部未払いも発覚しており、労働基準法第24条違反としても書類送検されています。

    時季指定とは、企業が従業員に対して、有給休暇の取得時季を指定することです。有給休暇を年10日以上付与されている従業員が年5日以上の有給休暇を取得していない場合、企業には対象者に取得時季のヒアリングをしたうえで時季指定をする義務があります。

    参照:『年次有給休暇の時季指定義務』厚生労働省

    有給休暇を年5日取得させていると虚偽報告をした

    従業員に有給休暇を年5日取得させていると見せかけるため、虚偽の報告をした事例です。虚偽の内容を記載した年次有給休暇管理簿を提出し、会社と担当課長が書類送検されました。

    慣例では有給休暇を取得させていないだけであれば是正勧告で済みます。しかし本事例では虚偽の年次有給休暇管理簿の提出に加え、記載内容に基づいた虚偽の陳述もあったとして、厳しい処分が下されました。

    また、同社では有給休暇を年5日以上取得できていない従業員が複数人いただけでなく、1日も休んでいない従業員もいたといいます。

    従業員からの有給休暇の取得申請に応じなかった

    従業員6人からの有給休暇取得申請に応じず、1日も取得させなかったとして、会社と各事業場の責任者が書類送検された事例です。

    対象となったのは、同社の事業場のうち従業員10人以上の規模の事業場です。また、同社は同年に、従業員への賃金未払いについても書類送検されています。

    有給休暇の年5日取得義務とは

    年5日の有給休暇取得が義務化されたのは、2019年4月1日です。2018年の働き方改革関連法案の成立にともない、企業の労働環境整備を目的として「時間外労働の上限規制」や「客観的な労働時間の把握」と一緒に施行されました。

    義務化の背景

    有給休暇は、理由にかかわらず従業員が自由に取得できるものであり、本来は従業員の申請に基づき取得させるのが原則です。しかし、休むことへの罪悪感や、上司や同僚への配慮などから、有給休暇の取得率は低い水準で推移していました。制度として存在していても、実際に活用されていなければ意味がありません。

    そこで2019年の労働基準法の改正によって、有給休暇の時季指定義務が新設されました。企業は年10日以上の有給休暇を付与されるすべての従業員に対して、取得の時季を指定して年5日の有給休暇を取らせなければなりません。

    ただし、従業員が自主的に取得している場合は時季指定の必要はなく、あくまですべての対象者に「年5日以上の有給休暇取得」を守らせるための規則です。

    ▼義務化の背景や企業の責任を詳しく確認するには、以下の記事をご覧ください。

    有給休暇の取得義務の対象となる従業員

    有給休暇の取得義務は、雇用形態にかかわらず、年10日以上の有給が付与される、すべての従業員が対象となります。

    フルタイム労働者は、6か月間継続して勤務しており、出勤率が8割以上が付与の条件です。一方で、勤務日数が少ないパート・アルバイトは、以下の条件を満たす人が対象です。

    週4日勤務3年6か月間継続勤務
    週3日勤務5年6か月間継続勤務

    ※いずれも直近1年間の出勤率が8割以上であること

    ▼有給休暇の対象者について付与条件・付与日数を詳しく知るには、以下の記事をご確認ください。

    年次有給休暇管理簿の作成と保存も義務化

    有給休暇の取得義務化にともない、年次有給休暇管理簿の作成と保存も義務化されました。

    年次有給休暇管理簿とは、従業員ごとに有給休暇の取得日数や時季などを記録する書類です。年次有給休暇管理簿は、従業員に有給休暇を与えた期間中と、期間終了後3年間は保存する必要があります。法律の条文では保存期間が5年とされていますが、経過措置により当面は3年間となっています。

    年次有給休暇管理簿を作成していなくても、罰則などはありません。ただし、年次有給休暇管理簿は、年5日以上の有給休暇取得を徹底するために作成するものです。取得義務を果たすためにも適切に活用することが望ましいでしょう。

    有給休暇の年5日取得義務における注意点

    年5日の有給休暇の取得義務を遵守するうえで、企業は次のようなポイントに注意する必要があります。

    • 前年度の繰り越し分は義務化対象の付与日数に含まれない
    • 特別休暇の取得日数は有給休暇から控除できない
    • 有給休暇の取得を拒否されても義務は免除されない
    • 時間単位年休は取得義務の5日に含まれない

    前年度の繰り越し分は義務化対象の付与日数に含まれない

    有給休暇の取得期限は、2年間と定められています。前年度から繰り越した有給休暇は、取得義務の付与日数条件に含まれません。

    前年の繰り越しが5日あり、今年新たに5日付与されたとしても、あわせて10日あるからといって取得義務の対象にできないのです。あくまでも、今年付与された日数が基準になります。

    繰り越し日数を含めて対象者を判断してしまわないように注意しましょう。付与日数や取得状況を一覧で確認できるようにしておくと、管理がラクになります。

    ▼有給休暇の繰越について詳しく知るには、以下の記事でご確認ください。

    有給休暇の管理を一元化|勤怠管理システムOne人事[勤怠]の特長を見る

    特別休暇の取得日数は有給休暇から控除できない

    法律に定められた有給休暇と任意の特別休暇は、まったくの別の制度です。原則として特別休暇を有給休暇の取得日数に含めることはできません。

    例外として、理由にかかわらず利用でき取得時季を限定しないなど、有給休暇とほぼ同等の特別休暇については、取得日数に加算することが認められています。

    厚生労働省のリーフレットでは、これまで特別休暇として付与していた休暇を廃止して従業員に有給休暇として取得させることは、法改正の趣旨に沿わないものであると案内されています。

    参照:『事業主の皆さまへ 法改正の趣旨に沿った、年次有給休暇の取得促進のために 年次有給休暇の時季指定を正しく取扱いましょう』厚生労働省

    有給休暇の取得を拒否されても義務は免除されない

    従業員が有給休暇の取得を拒否した場合でも、企業の取得義務は免除されません。

    まずは、法令遵守を徹底するためにも、就業規則に年5日の取得義務について記載しましょう。そのうえで、法律で定められた規則であることを十分に説明し、「仕事を進めたいから」といった理由で有給休暇を取得したがらない従業員に対しては業務量を調整するなどの対応をとります。

    どうしても取得したがらない場合には、戒告や始末書などの軽い懲戒処分を課すことも可能です。ただし、懲戒処分は就業規則に基づいて決定するものなので、懲戒事由として有休の取得拒否をあらかじめ記載しておく必要があります。

    時間単位年休は取得義務の5日に含まれない

    時間単位で付与する有給休暇を時間単位年休といいます。時間単位年休は、有給休暇の取得義務である5日間には含まれません。

    有給休暇の本来の目的は「労働者にまとまった休暇を与え、心身を回復してもらうこと」です。時間単位年休は1年間に計5日分を超えて与えてはならないと定められています。

    有給休暇を年5日確実に取得させる方法

    「忙しくて休みを取らせられなかった」「本人が断った」というケースでも、結果として有給休暇を年5日取得させられなければ、企業に責任が問われる可能性があります。

    有給休暇の確実な取得を促すために、企業は次のような対策を検討してみましょう。

    • 取得時季を指定する
    • 計画的付与制度を導入する
    • 基準日を統一する
    • 勤怠管理システムを導入する

    取り組み方のポイントも踏まえて解説していきます。

    取得時季を指定する

    企業には、有給休暇の取得日数が不足しそうな従業員に対して、取得時季を指定する権利があります。ただし、一方的に取得時季を指定するのではなく、従業員に希望日をヒアリングしたうえで決定することが大切です。

    四半期や半年ごとなどに有給休暇取得計画表を作成することも検討してみましょう。シフト調整の要領で、それぞれの従業員の希望にあわせて有給休暇の取得スケジュールを決定するのも一案です。

    計画的付与制度を導入する

    従業員の有給休暇の取得日を指定できる計画的付与制度を導入する方法もあります。

    対象となる有給休暇は、付与日数から5日間を引いた日数です。有給休暇の付与日数が10日なら、残りの5日間は計画的に取得させることが可能です。

    計画的付与制度を導入するためには、就業規則への記載と労使協定の締結が必須です。

    基準日を統一する

    有給休暇は入社後6か月が経過した日に付与されるのが原則なので、有給休暇の基準日は従業員ごとに異なる場合も多いでしょう。しかし、基準日がバラバラだと有給休暇の管理が複雑になってしまうため、基準日を統一して管理を容易にするという方法もあります。

    ただし、労働条件の不利益変更にならないよう注意が必要です。たとえば、8月1日に入社した従業員は、本来であれば6か月後の2月1日に有給休暇が付与されます。しかし、入社後に有給休暇の基準日が4月1日に統一されると、4月1日まで有給休暇が付与されなくなってしまいます。

    労働条件の一方的な不利益変更は違法となるため、入社時に有給休暇を一律の日数付与するといった対策をとりましょう。

    ▼有給休暇の基準日の見直しを検討しているなら、以下の記事もご確認ください。

    勤怠管理システムを導入する

    有給休暇の取得を促進するなら、勤怠管理システムを積極的に活用してみてはいかがでしょうか。勤怠管理システムは有給休暇の管理でもお役立ていただけます。

    • 取得期限が迫っている従業員にアラートを出せる
    • 有給休暇の管理を自動化、効率化できる
    • 有給休暇の取得状況をリアルタイムに確認できる
    • 従業員が有給休暇を気軽に申請できるようになる
    • 年次有給休暇管理簿も作成できる

    人事労務担当者に手間をかけることなく、有給休暇が取りやすい環境を整備できます。

    まとめ|有給休暇を年5日確実に取得させるには?

    企業には、有給休暇を年10日以上付与している従業員について、年5日の有給休暇を取得させる義務があります。

    従業員が有給休暇を取得できなかった場合、企業に30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。実際には、今すぐ罰則が科せられるケースはほとんどありませんが、送検事例もあるため注意が必要です。

    有給休暇の管理に課題を感じているなら、勤怠管理システムの活用を検討してみましょう。有給休暇の情報を一元管理し、取得状況をリアルタイムに把握できるようになります。未消化者へのアラートなど、便利な機能が搭載されているシステムも多く、義務化への対応や適切な管理に役立ちます。

    有給休暇の取得状況を効率的に管理|One人事[勤怠]

    One人事[勤怠]は、煩雑な有給休暇の管理をシンプルにする勤怠管理システムです。有休の付与・失効アラート機能も対応しており、取得漏れや期限切れの防止につながります。

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