有給休暇の期限は2年? 1年? 計算や繰越の考え方、パートの取り扱いを解説
有給休暇の期限は、従業員に付与してから2年間と定められています。しかし、有給休暇が消滅するまでの期間の計算方法や繰越の仕組みは少し複雑です。従業員の有給休暇が余った場合の処理について、正しいやり方が理解できず困っている担当者も多いでしょう。
そこで、本記事では有給休暇の消滅・繰越の考え方について詳しく解説します。雇用形態による違いも紹介しているので、有給休暇の適切な管理にお役立てください。
有給休暇の期限は2年|繰越と消滅の仕組みを解説
有給休暇の期限は、2年間と定められています。付与から2年以内に消化されなかった有給休暇は、期限切れとして取得できなくなる仕組みです。
しかし、従業員に与えられた役割や業務量によっては、有給休暇を取得しきれず余らせてしまうケースも多いでしょう。そのため、有給休暇の繰越が認められています。
有給休暇の繰越とは
有給休暇の繰越とは、1年以内に使いきれなかった有給休暇を翌年に持ち越す仕組みです。有給休暇の期限は2年間なので、有給休暇を繰り越す場合は、その時点からさらに1年間期限が延長されます。
具体例
前年度からの有給休暇を7日分繰り越し、2023年4月に16日の有給休暇を付与したケースを考えてみましょう。繰り越した7日分は2022年4月に付与されたものなので、2024年3月末に期限を迎えます。
繰越分を使いきった場合
2023年度内に有給休暇を8日分取得した場合、まずは2022年度分の残り日数から優先的に消化されます。すると、2022年度の残日数をすべて消化したうえで、2023年度の有給休暇を1日消化したことになります。
2023年度の有給休暇は「16日-1日」で残り15日です。この15日分は翌年に繰り越され、2025年3月末まで使用できます。
繰越分を使いきらなかった場合
2023年度内に有給休暇を6日分取得した場合、まずは2022年度分の残り日数から優先的に消化され「7日-6日」で残りは1日です。この1日は2024年3月末で期限を迎えるため、使いきれなかったものとして消滅してしまいます。
この場合、2023年4月に付与された16日分はそのまま残っているので、翌年度に全日数を繰越可能です。
有給休暇に期限が設けられている理由
有給休暇は、従業員に十分な休息を与え、リフレッシュしてもらうための制度です。ゆとりある生活を保障する目的で「1年あたり◯日分」という単位で付与されるものなので、まったく消化せずに繰り越しを続けるのはあまり望ましくないといえます。
もし有給休暇に期限がなく、いつでも取得できる状態であれば、取得を先延ばしにしてしまう人が増えてしまうでしょう。従業員に休息をとることを意識してもらうためにも、有給休暇にはある程度の期限が必要なのです。
有給休暇の基本的な考え方
以下の2つの条件を満たした従業員には、雇用形態を問わず有給休暇が付与されます。
- 半年間継続的に雇用されている
- 全労働日の8割以上出勤している
参照:『事業主の方へ|年次有給休暇取得促進特設サイト』厚生労働省
また、年間の付与日数は、勤続年数や週の所定労働日数、所定労働時間によって変動します。フルタイム従業員とパートタイム・アルバイト従業員は、所定労働日数や労働時間が異なるケースも多いため、それぞれの違いを把握しておくことが大切です。
ここからは、有給休暇の付与日数に関する基本的な考え方を解説しましょう。
フルタイム従業員の付与日数と条件
所定労働日数が週5日以上または所定労働時間が週30時間以上の場合、勤続年数に応じて以下の日数が付与されます。
勤続年数 | 付与日数 |
---|---|
6か月 | 10日 |
1年半 | 11日 |
2年半 | 12日 |
3年半 | 14日 |
4年半 | 16日 |
5年半 | 18日 |
6年半以上 | 20日 |
フルタイム従業員の多くは週5日以上または30時間以上働いているため、勤続年数に応じて上記の日数が付与されます。
出典:『年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています』厚生労働省
パート・アルバイト従業員の付与日数と条件
所定労働日数が週4日以下かつ所定労働時間が週30時間未満の場合、付与日数は以下の通りです。
勤続年数 | 所定労働日数・付与日数 | |||
---|---|---|---|---|
週1日 | 週2日 | 週3日 | 週4日 | |
年48~72日 | 年73~120日 | 年121~168日 | 年169~216日 | |
6か月 | 1日 | 3日 | 5日 | 7日 |
1年半 | 2日 | 4日 | 6日 | 8日 |
2年半 | 2日 | 4日 | 6日 | 9日 |
3年半 | 2日 | 5日 | 8日 | 10日 |
4年半 | 3日 | 6日 | 9日 | 12日 |
5年半 | 3日 | 6日 | 10日 | 13日 |
6年半以上 | 3日 | 7日 | 11日 | 15日 |
出典:『年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています』厚生労働省
パートタイム・アルバイト従業員は、フルタイム従業員と比べて勤務日数・時間が少ないため、こちらの付与日数に当てはまる場合が多いでしょう。
なお、有給休暇の付与日数は雇用形態ではなく、あくまで所定労働日数や所定労働時間によって変動するものです。パートタイム・アルバイト従業員であっても、週5日以上または週に30時間以上働いている場合は、フルタイム従業員と同じ日数が付与されます。
有給休暇の年5日消化義務について
2019年4月より、年間10日以上の有給休暇を付与している従業員については、少なくとも年間5日分を取得させることが義務化されました。フルタイム従業員は、有給休暇の要件を満たした時点で全員がこの要件に当てはまります。
また、所定労働日数が週4日以下、所定労働時間が週30時間未満の場合も、以下の勤続年数に達している従業員に対しては、5日分の有給休暇を取得させる必要があります。
- 週3日(年121~168日)で5年半以上
- 週4日(年169~216日)で3年半以上
また、5日間の有給休暇は、そのすべての日数を全休または半休として与えなければなりません。時間単位の有給休暇取得自体は法的にも認められていますが、取得義務のある5日間については1日または半日単位で付与する必要があります。
参照:『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』厚生労働省
有給休暇の期限を過ぎそうな場合、買取できる?
有給休暇の買取は、原則として禁止されています。有給休暇は従業員に十分な休息を与えることを目的とした制度であり、休ませずに買い取ってしまっては、制度の趣旨に反するためです。
しかし、以下のいずれかの状況に当てはまると、例外的に買取が可能な場合もあります。
- 期限切れにより有給休暇が消滅した
- 法定日数を上回る日数を付与されている
- 退職までに有給休暇を消化しきれない
ただし、上記に該当していても、企業に対して買取が義務づけられるわけではありません。期限を過ぎそうな有給休暇を買い取るかどうかは、企業の裁量に任せられています。
従業員から買取の希望があった場合は、まず自社のルールを確認してみましょう。
有給休暇を期限内に消化してもらうための対策
厚生労働省の『令和5年就労条件総合調査』によると、令和4年における有給休暇取得率は62.1%と報告されています。企業規模が小さくなるほど取得率は低下する傾向があり、実態としては有給休暇を期限内に消化しきれない従業員が多いようです。
休息をとることは、モチベーションや生産性の向上にもつながります。法律で義務づけられた5日分の取得はもちろん、企業は従業員にとって有給休暇を取得しやすい環境を整える必要があるでしょう。
そこで、従業員に有給休暇を取得してもらうための施策をご紹介します。
計画的に付与する
あらかじめ労使協定を締結すれば、従業員に計画的に有給休暇を付与することも可能です。これを計画的付与制度といい、法的義務のある5日間の有給休暇取得に採用する企業が増えています。
通常の有給休暇制度は従業員の自由な申請によって成り立っていますが、計画的付与制度を導入すると、企業の夏季休暇や年末年始休暇などと組み合わせて付与できます。
もちろん、取得義務のある5日を超える有給休暇の取得にも活用できます。ただし、その場合は、従業員が自由に申請できる日数を少なくとも5日間残さなければなりません。
有給休暇取得計画表を作成する
年間有給休暇取得計画表を個別に作成し、従業員に1年間の取得計画を立ててもらう方法もあります。あらかじめ従業員の希望を確認しておくことで、業務の進行や繁忙期などを考慮した割り振りを実現できます。
また、従業員に有給休暇取得の意識を促す効果も期待できるでしょう。
時間単位で取れるようにする
有給休暇は1日単位の取得を原則としていますが、労使協定を締結すれば時間単位での取得も認められています。「2時間だけ」「3時間だけ」など時間単位で有給休暇を導入すれば、それぞれのライフスタイルに合わせて柔軟な取得を促せるでしょう。
なお、時間単位制の有給休暇は、年5日までと定められています。また、取得が義務づけられた5日間については、全休または半休として付与しなければなりません。
失効年休積立休暇制度を導入する
失効年休積立休暇制度とは、期限を迎える有給休暇を積み立てておいて、必要なときに使えるようにする制度です。実際には、もともと付与された有給休暇は消滅してしまいますが、企業が消滅した日数分を積み立てておくことで、取得の機会を維持するというものです。
失効年休積立休暇制度は企業が独自に設定するものであり、法的な定めはありません。通院や介護、子どもの学校行事参加など、取得の目的を限定することも可能です。
役職者から積極的に消化する
上司が有給休暇を積極的に消化していれば、部下も申請しやすくなります。自社の有休消化率を向上させるためには、役職者が率先して有給休暇を取得することが大切です。
業務効率化を支援するシステムを導入する
有給休暇の取得を促すためには、従業員が休みやすい環境をつくる必要があります。
多忙を理由に有給休暇の取得があと回しになってしまうケースは多いため、業務効率を高めるようなシステムを導入し、1人あたりの業務負担を軽減することも大切です。
人材配置など体制を見直す
業務負担を軽減するという意味では、人材配置の見直しも重要です。人材配置を最適化し、個人のスキルや能力に合わせた業務を与えられると、全体の生産性の向上が期待でき、それまでよりも短時間で業務をこなせる可能性が高まります。
人材が不足している企業では、新たな人材の確保も必要です。有給休暇の取得推進の取り組みに合わせて、テレワークやフレックスタイム制などの多様な働き方を導入すれば、優秀な人材の確保につながるでしょう。
有給休暇の期限を管理するには?
有給休暇の期限を管理するためには、従業員一人ひとりに付与されている日数や取得状況を正確に把握する必要があります。管理業務の効率化には、有給休暇の管理機能が備わった勤怠管理システムの導入がおすすめです。
One人事[勤怠]は、有給休暇の管理を自動化する勤怠管理システムです。
簡単な設定により有給休暇の付与日や取得日数、残日数などを自動計算し、従業員へ取得を促すリマインド機能も備わっています。
複雑な有給休暇の管理をシステム化し、担当者の負担を軽減できるでしょう。
有給休暇の管理を怠ると社会的信用が低下するだけでなく、最悪の場合は罰則を科せられる恐れがあります。有給休暇の取得率が低い企業は、ぜひOne人事[勤怠]の導入をご検討ください。
有給休暇を期限内に消化しやすい組織風土づくりを
有給休暇には期限があり、付与から2年を超えると消滅してしまいます。買取も条件次第では認められる場合がありますが、そもそも有給休暇は従業員にリフレッシュしてもらうための制度です。自社の有給消化率が低いと、従業員が十分な休息をとれず、組織全体の生産性の低下につながります。
有給休暇の付与日数や残日数を正確に管理するとともに、有給休暇を取得しやすい環境を整備しましょう。