時短勤務でも給与は減らない? 減額の考え方や減らないケースも紹介

「時短勤務をすると給与が減るのだろうか」と不安を抱いている従業員は少なくありません。子育てと仕事の両立を考えるうえで、時短勤務中の給与は重要な関心ごとです。
企業の人事担当者にとっても、時短勤務制度を運用するにあたって、給与の取り扱いを説明することは避けて通れないテーマといえるでしょう。
本記事では、時短勤務と給与の関係をわかりやすく整理し、2025年4月から始まった「育児時短就業給付」についても詳しく解説します。時短勤務を検討している方や、その支援にかかわる人事労務担当者は、ぜひお役立てください。
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目次

時短勤務でも給与は減らない?
まず前提として、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき給与は働いた時間に応じて支払われるのが基本のため、時短勤務で給与は減ります。1日の労働時間の短縮に比例して、給与も少なくなるのが一般的です。たとえば、1日8時間働いていた人が6時間勤務になると、単純計算で給与は約25%減ることになります。
「時短勤務では収入が減る」というイメージを持つ方は少なくないでしょう。
2025年4月にスタートした「育児時短就業給付」
育児や介護でフルタイム勤務が難しい人にとって、時短勤務による収入の減少は大きな負担です。そこで2025年4月から新たに「育児時短就業給付」が創設されました。
育児時短就業給付は、働く時間を減らしても、一定額は国が補填してくれる制度です。以下の条件を満たす時短勤務者には、育児時短就業中に支払われた賃金額の10%が給付金として支給されます。
- 2歳未満の子どもを育てる時短勤務者
- 時短勤務によって給与が下がる
- 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて時短勤務を開始、または、時短勤務開始日前2年間に雇用保険の被保険者期間が12か月ある
制度が創設されたことにより、時短勤務者の給与減少の不安が軽減されています。
参照:『子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要』こども家庭庁

時短勤務とは
時短勤務とは、育児や介護をする従業員が、所定労働時間を短縮して働ける制度です。正式名称を「短時間勤務制度」といいます。育児介護休業法に基づき、条件を満たす従業員から申し出があった際、企業は制度を利用させなければなりません。
子どもがまだ小さく保育園の送迎が必要な家庭では、通常のフルタイム勤務が難しいこともあります。育児・介護との両立を支援し、無理なく就労を継続できる仕組みが、時短勤務制度です。
時短勤務の条件
法律上、企業に対して時短勤務制度の提供が義務づけられているのは、3歳未満の子どもを育てる従業員です。ほかにも以下のような条件があります。
- 日々雇用される労働者でない
- 1日の所定労働時間が6時間以上である
- 短時間勤務制度が適用される期間に育児休業(産後パパ育休含む)をしていない
- 労使協定により適用除外とされた従業員でない
条件に該当する場合、企業は従業員の申し出に応じて、時短勤務を認める必要があります。
法律を上回る制度設計も可能
また企業の裁量によって、より長い期間や幅広い対象に制度を拡大することも可能です。3歳以上の子どもを育てる従業員の場合、子どもが小学校に入学するまで時短勤務を認める制度を設けている企業も増えています。
従業員のライフステージにあわせた柔軟な制度設計は、離職防止や職場定着にもつながるため、重要な取り組みといえるでしょう。
時短勤務で給与が減る働き方の例
時間管理制や時給制といった労働時間を基準とする給与体系は、時短勤務によって給与が減る代表的なケースです。「時短勤務=収入減」という認識が広まっているのも無理はありません。
以下では、それぞれの給与体系における給与減少の仕組みを解説します。
時間管理制
時間管理制とは、1日や1か月の所定労働時間に対して給与を計算する制度です。多くの正社員に適用されています。
時間管理制で時短勤務を選択すると、勤務時間が短くなるぶん、給与も減額されます。たとえば月給25万円の従業員が、1日8時間の勤務から6時間勤務に短縮した場合、短縮率は75%です。給与も、もともと75%にあたる約19万円に減ることになります。
時給制
時給制は、労働1時間ごとの給与(時給)が決まっており、勤務時間に応じて給与が発生する制度です。時短勤務が、より直接的に給与減少につながります。
たとえば、時給1,200円で1日8時間勤務の場合、日給は9,600円です。時短勤務で6時間勤務に変わると、日給は7,200円に減ります。月単位でも、減少する労働時間だけ給与が減少します。
時短勤務でも給与が減らない働き方
労働時間に関係なく、成果や役割で評価される働き方では、時短勤務でも基本的に給与は減りません。
具体的には、裁量労働制や成果主義など、労働時間が給与に直接的に影響しない働き方が挙げられます。裁量労働制や成果主義は、勤務時間に縛られることなく、成果や業務内容、役割に基づいて給与が決まります。そのため、時短勤務をしても基本的に給与が減少することはありません。
以下では、それぞれの働き方における時短勤務者の給与支払いについて、具体的に解説していきます。
裁量労働制
裁量労働制は、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ労使間で決めた時間を働いたとみなして賃金を支払う制度です。たとえば、みなし労働時間を8時間とすると、実労働時間が5時間や6時間であっても、8時間働いたこととして賃金が支払われます。裁量労働制では、時短勤務をしても収入が減ることはありません。
成果主義
成果主義は、仕事の成果に応じて従業員を評価し、給与を決める制度です。どれだけの時間働いたかではなく、どんな成果をあげたかが重視されます。企業の運用ルールによっては、時短勤務であっても給与が減らない場合があります。
たとえば、限られた時間のなかでプロジェクトを効率よく進め、高く評価されると、時短勤務でも給与が上がることもあるでしょう。フルタイムの従業員よりも高い給与を得られることも考えられます。
時短勤務における給与や賞与
時短勤務者の給与・賞与は、短縮した労働時間分を減額して計算します。労働者が仕事をしていない場合は、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、給与を支給しないというルールがあるためです。
また、育児・介護休業法により、育児・介護に従事する時短勤務者に対して、不当な取り扱いは禁止されています。労働時間が短いことを理由に、実態に反した給与の減額をしないように注意しましょう。
参照:『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第10条』e-Gov法令検索
時短勤務の給与計算
時短勤務者の給与計算は、以下の計算式で算出します。
時短勤務中の基本給=基本給×時短勤務時の所定労働時間÷本来の所定労働時間 |
たとえば、フルタイムで1日8時間勤務・月給25万円の従業員が、時短勤務で1日6時間となった場合、以下のとおり計算します。
25万円 × 6時間 ÷ 8時間 = 約18万7,500円 |
以上のように、所定労働時間の短縮に比例して、基本給が調整される仕組みです。
時短勤務の残業代
時短勤務においても、所定労働時間を超えて勤務した場合には残業代が発生します。労働時間が短縮されていても、残業の概念や支払い義務は変わりません。
残業時間がどのように扱われるかは、法定労働時間(1日8時間)を基準に、以下の残業の種類によって整理することが大切です。
残業の種類 | 残業代の種類 |
---|---|
所定労働時間を超えた法定労働時間内の残業 | 通常の残業代 ※就業規則の規定による |
法定労働時間を超えた残業 | 割増賃金 |
たとえば、所定労働時間6時間の時短勤務者が2時間の残業をした場合、2時間の法定内残業をしたことになります。法定内残業に対する残業代の支払い有無は、企業の判断に任されています。
一方で、所定労働時間が6時間の時短勤務者が3時間の残業をした場合、法定労働時間を1時間超えるため割増賃金の対象です。2時間は法定内残業、1時間は法定外残業として割増賃金を支払わなければなりません。
参照:『法定労働時間と割増賃金について教えてください。』厚生労働省
時短勤務の賞与計算
賞与(ボーナス)は法律上の支払い義務がないため、時短勤務者に対する支給は企業の判断に任されています。計算方法や支給条件も企業により異なります。
時短勤務者の賞与計算の方法は、大きく分けると次の2パターンです。
基本給を基準 | 時短勤務で減額された基本給を基準に、賞与も減額される |
---|---|
業績を基準 | 個人や部署の業績を反映して賞与額を決める。時短勤務であっても高い評価を得ていれば、賞与が減らない |
なお、時短勤務者の処遇がフルタイム勤務者と比べて不当に劣るものであってはなりません。以下のような対応は法令違反となる可能性があるため注意しましょう。
- 時短勤務を理由に賞与や昇給の対象から一律に外す
- 勤務成績と無関係に人事評価を下げる
賞与に関する適切な基準を設定し、周知することが大切です。
時短勤務における社会保険料控除
育児休業から復帰し、時短勤務を開始した従業員も、基本的には引き続き社会保険に加入することになります。
時短勤務者が注意したいのは、勤務時間の短縮により給与が減っているのに、保険料が復帰前のフルタイム時の給与(標準報酬月額)をもとに計算されることです。そのため実際の収入に対して保険料が割高に感じられる方も少なくありません。
社会保険料を減額する方法
時短勤務者の保険料負担を軽減するために、政府は特例措置を設けています。「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することで、復帰後3か月間の給与をもとに標準報酬月額を見直し、社会保険料を引き下げることが可能です。
申請条件は以下のとおりです。
- 育児休業復帰後、3歳未満の子どもを養育している
- 復帰前と復帰後の標準報酬月額に1等級以上の差がある
- 復帰後3か月において、支払い基礎日数が17日以上ある月が少なくとも1か月以上ある
企業側の対応
特例は、従業員本人の申し出と企業による届け出が必要です。従業員が制度の存在を知らずに申し出を逃してしまうケースもあるため、企業はあらかじめ制度を周知しておくとよいでしょう。
時短勤務の給与計算における注意点
時短勤務者の給与計算に対応する際、企業が注意したい点を紹介します。
- 時短勤務の給与の取り扱いは就業規則に規定する
- 時短勤務者の賞与額は減ることもある
- 介護による時短勤務に保険料特例はないことを理解する
とくに給与や賞与の減額は、従業員のモチベーションに影響を与える要素です。形式的な説明だけでなく、なぜそうなるのかをていねいに伝える姿勢が求められます。
時短勤務の給与の取り扱いは就業規則に規定する
時短勤務者の給与計算に関するルールは、あらかじめ就業規則に明記しておく必要があります。どのような基準で減額するのか、減額率は何%かといった内容を具体的に、定めておきましょう。
実際に時短勤務となった従業員が「思ったより手取りが少ない」と感じたときも、就業規則を根拠に納得のいく説明ができるようになります。
時短勤務者の賞与額は減ることもある
時短勤務者の賞与額も、一般的に労働時間の短縮に応じて減額されます。賞与も給与と同様に、基本給に連動して支給するパターンを採用している企業が多くあるためです。
賞与の支給方法や計算基準は法的に明確な基準がなく、各企業の就業規則にしたがって決定されます。平等性を欠いた運用で、従業員の不信感を招かないよう、給与とあわせて賞与についても明文化しておきましょう。
介護による時短勤務に保険料特例はないことを理解する
介護による時短勤務者や、育児休業を取得せずに時短勤務を始めた従業員には、社会保険料が減額される特例は適用されません。
ただし、「随時改定(月額変更届)」によって社会保険料を抑えられる可能性があります。随時改定は、固定的な賃金に大きな変動があった場合、通常年1回の定時決定を待たずに標準報酬月額を見直せる制度です。保険料の減額特例とは異なり、従業員からの申請を待つのではなく、企業側が給与の変動を把握したうえで対応する必要があります。
時短勤務によって基本給が大きく変わった場合、随時改定の適用条件を満たしているかどうかを確認し、確実に対応しましょう。

まとめ
時短勤務者の給与は、働いた時間に応じて計算され、労働時間の短縮に比例して減少するのが一般的です。ただし、裁量労働制や成果主義のように、時短勤務でも給与が減らないケースもあります。
また、2025年4月からは「育児時短就業給付」によって、2歳未満の子どもを育てながら働く時短勤務者は、減額分の一部が補填されるようになりました。
給与の変動幅や従業員の申し出に応じて、社会保険料も変わる可能性もあります。企業の担当者は制度を正しく理解し、必要に応じて公的手続きを進めましょう。
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