手待ち時間は労働時間に該当する? 休憩時間との違いや判断基準を詳しく解説

サービス業や運送業では、作業が発生しない「手待ち時間」が発生します。手待ち時間とは、使用者の指示に備えて待機している時間です。
手待ち時間に、従業員がスマートフォンを見ていたり、ただ座っていたりする様子を目にして、「今は労働時間になるのか」と悩んだ経験はありませんか。手待ち時間が、労働時間にあたるか否かは、業種・業界によってさまざまなケースが考えられ、判断が難しい場合があります。
本記事では、手待ち時間の定義や休憩時間との違い、判断のポイントを詳しく解説します。手待ち時間のよくある具体例を踏まえ、企業が気をつけたい労務管理上の対応も確認していきましょう。
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目次

手待ち時間とは指示待ちの時間
手待ち時間とは、従業員が実際に作業をしていなくても、上司や会社の指示があればすぐに業務にあたれるよう、待機している時間をいいます。たとえば、機械の点検中に作業が止まっているときや、お客さまが来るのを店頭で待っているときです。
手待ち時間は働いていないように見えても、業務を再開する準備をしながら「指揮命令下にある」状態であれば、労働時間とみなされます。完全に業務から解放されているとはいえない以上、会社にはその時間分の賃金を支払う義務があります。
手待ち時間と休憩時間の違い
手待ち時間と休憩時間は、どちらも「仕事をしていない時間」という点で共通しており、現場でも混同されやすい時間区分です。しかし、法的な扱いや賃金の支払い義務に大きな違いがあります。違いを見極めるポイントは主に次の2つです。
- 従業員の置かれている状態が、指揮命令下にあるか否か
- 賃金の発生の有無
両者の特徴を比較すると以下のとおりです。
手待ち時間 | 休憩時間 | |
---|---|---|
定義 | 労働から完全には離れず、業務の再開を待っている時間 | 労働から解放されて自由に過ごせる時間 |
状態 | 指示があればすぐに業務が再開できるように待機している状態 | 待機する必要がないため自由に過ごせる状態 |
指示への対応 | 指示があれば対応が必要 | 指示があっても対応は不要 |
実労働時間 | 労働時間に含まれる | 実労働時間に含まれない |
賃金の支払い | 必要 | 不要 |
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休憩時間は従業員が労働から完全に解放され、上司や会社の指揮命令を受けない状態で自由に過ごせる時間です。
一方で、手待ち時間は「いつでも動ける状態」にあるため、労働から完全に離れているとはいえません。基本的に労働時間に含まれ、通常の賃金や時間外労働の割増賃金が発生します。
手待ち時間を休憩時間とみなし、賃金を減額するような扱いは禁止されています。万一、休憩時間としながら、実際には電話番や来客対応を求めるのは、休憩と認められません。違いを見誤ると、労働基準法違反や未払い賃金のリスクにつながるため、慎重に判断しましょう。
休憩時間が手待ち時間とみなされた場合の罰則
休憩時間が「手待ち時間」とみなされると、労働基準法第34条に違反し、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
手待ち時間は労働時間にあたるため、時間を休憩として扱うと、「必要な休憩を与えていない」と判断される可能性があるためです。
従業員に休憩をきちんと取らせているつもりでも、実態がともっていなければ、企業側が処罰の対象になることもあります。休憩中に業務を待機させていないか、今一度見直すことが大切です。
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手待ち時間の具体例
職種によっては、作業が発生していない時間が自然と生まれることもあります。接客の合間や仮眠中が手待ち時間にあたるのか、判断に迷って不安を感じる方もいるのではないでしょうか。
そこで手待ち時間と判断されやすい具体例を職種別に紹介していきます。
- タクシードライバーの客待ち時間
- 店番の待機時間
- 電話対応や来客対応が必要な休憩時間
- 配送業者の待機時間
- 医療従事者の待機時間
自社の現場にあてはまるケースがないか、チェックしてみましょう。
タクシードライバーの客待ち時間
タクシードライバーは、常にお客さまを乗せて走っているわけではありません。以下のような待機時間は、手待ち時間とみなされます。
- タクシー乗り場や駅のターミナルなどでお客様を待っている時間
- 空車の状態で走行している時間
たとえスマートフォンを操作していたり、車内でくつろいでいたとしても、会社や配車サービスの指示があればすぐに業務に戻れる状態であるため、労働時間とみなされます。
▼運送業の時間外労働の規制が見直されています。詳細を知るには以下の記事もご確認ください。
店番の待機時間
飲食店やアパレルショップ、スーパーなどのサービス業における店番も、典型的な手待ち時間にあたります。来店客を待ってレジ前や店頭に立ち続ける行為は、いつでも業務にあたれる状態とみなされるためです。
仮に「お客様がいないときは適宜休憩を取得してよい」という雇用条件だったとしても、業務から完全に解放されていない限りは、賃金が発生します。待機中に商品管理や店内の整理、清掃作業をしている時間も、明らかに業務中と判断されるため労働時間に含まれます。
電話対応や来客対応が必要な休憩時間
「お昼休みだけど、電話が鳴ったら取ってね」という何気ない指示も、手待ち時間とみなされるため注意しましょう。 職場によってはよく見られる運用かもしれませんが、電話対応や来客対応が必要な時間は手待ち時間です。
「指示があれば動かなければならない状態」は「指揮命令下にある状態」と判断されるからです。会社側が休憩として認識し、シフトに記載されていたとしても、実質的には労働時間とみなされ、賃金の支払い義務が発生します。
対応が必要な場合は、業務から完全に切り離された時間を、別途確保する必要があります。
配送業者の待機時間
荷物の受け渡しのタイミングや取引先の都合で、待機を求められる配送業務も、手待ち時間が発生しがちな業種です。配送業者は、以下のような状況で手待ち時間と判断される可能性があります。
- 配送先で荷物の受け渡しを行っている時間
- 到着時間がわからず、会社から待機するように指示された時間
到着時間が明確に決まっており、待機中に車外で自由に過ごすことが許されている場合などは、休憩時間とみなされることもあります。
重要なのは、待機中の「自由度の有無」と「使用者の指揮命令がおよんでいるか」です。
形式上の自由ではなく、実質的に拘束されているかどうかが判断のポイントとなります。
医療従事者の待機時間
医師や看護師などの医療従事者においては、当直勤務や夜間待機といった特殊な労働形態が手待ち時間を発生させます。医療現場における手待ち時間の例は以下のとおりです。
- 当直で緊急時に備えて待機している時間
- 仮眠中であっても電話対応が求められる時間
たとえ実際に業務をしていなくても、緊急時の対応が必要で業務の一環として待機している場合は労働時間とみなされます。なお、厚生労働省は「宿日直許可」を受けた一部の医療機関等に対し、例外的な取り扱いを認めています。
仮眠時間
業種・職種を問わず、夜勤や長時間勤務の合間に、仮眠時間を設けている職場も少なくありません。仮眠が休憩になるか、手待ち時間になるかは、過ごし方や条件によって判断が分かれるところです。
以下のケースでは、仮眠時間が手待ち時間として扱われます。
- 仮眠中に緊急時の対応が求められる
- 仮眠場所を指定されている
一方で、完全に業務から離れ、指揮命令を受けない自由な時間として仮眠を取れている場合は、休憩時間に該当します。仮眠時間が手待ち時間と判断される際のポイントは、指揮命令下にあるかどうかです。
▼夜勤における休憩時間の取り扱いを詳しく知るには以下の記事をご確認ください。
手待ち時間とみなされないケース
拘束されているように思える時間でも、指揮命令下にない限りは、手待ち時間にはなりません。手待ち時間に該当しない典型的なケースは以下のとおりです。
- 通勤時間・移動時間
- 手待ち時間として判断されない職種
手待ち時間と認められるかの分かれ目は、従業員が自由に行動できるかどうかにあります。事例を一つずつ確認していきましょう。
通勤時間・移動時間
従業員の自由な時間が含まれる通勤時間や移動時間は、使用者の指揮命令下にあるとはいえないため、手待ち時間には該当しません。
手待ち時間とみなされない具体的な事例として、次のような行為ができる移動時間が挙げられます。
- 読書をする
- ゲームをする
- 仮眠を取る
ただし、移動中に仕事をしたり、業務の指示を受けたりする場合は、労働時間であり賃金の支払い義務が生じます。
▼移動時間の考え方について詳しく知るには、以下の記事で確認ください。
手待ち時間として判断されない職種
次の職種は、労働基準監督署長の許可がおりると、労働時間や休憩時間、休日に関連する労働基準法の規定が全部または一部適用除外となります。
- 隔日勤務のビル警備員や守衛
- 学校の用務員
- 団地の管理人(住み込みの場合)
- 会社役員などの専属ドライバー
なお、実態により仮眠時間や待機時間などが、手待ち時間と判断されないケースもあると理解しておきましょう。
手待ち時間のほかに労働時間とみなされるもの
本記事で紹介してきたように、手待ち時間は「働いていないように見えても、実質的に業務に従事している状態」で、労働時間の一部です。職場では、手待ち時間のほかにも、労働時間として扱うべきか迷うケースがありますよね。具体的には以下の4つの例は、実際に働いていなくても、労働時間とみなされます。
- 始業前の掃除や準備にかかる時間
- 作業服や制服への着替えにかかる時間(着用義務・着替え場所の指定がある場合)
- 朝礼への参加
- 受講しなければならない研修
判断に迷わないように、事例を確認しておきましょう。
始業前の掃除や準備にかかる時間
従業員に始業時間よりも早く出勤させて、業務前の掃除や備品の準備をさせる職場もあります。掃除や準備といった作業は、業務に必要な労働とみなされるため、労働時間の一部です。
業務前の作業だけでなく、終業後の片づけや整理なども、業務の一部と判断されるため、同様に労働時間として管理しなければなりません。
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作業服や制服への着替えにかかる時間
企業や職種によっては、所定の作業服や制服の着用が必要な場合もあるでしょう。業務開始前に更衣室で着替えるよう指示されている場合、着替えにかかる時間は労働時間と扱われます。業務の準備として位置づけられます。
一方で、自宅から作業服や制服を着たまま通勤する運用であれば、通勤前の着替えは労働時間には含まれません。着替えの時間が労働時間とみなされるのは、あくまでも所定の作業服や制服の着用が義務づけられ、会社の指定する更衣室などの場所で着替えるよう指示されているケースです。
▼着替え時間の考え方は以下の記事で詳しくご確認ください。
朝礼への参加
朝礼は出席が任意で、出欠によって待遇や評価に影響が出ない場合は、朝礼の参加時間は労働時間に該当しません。しかし、参加が義務づけられていたり、参加しないと査定に影響があったりする場合は、労働時間として扱います。朝礼中に業務指示が出る場合も、時間ではなく労働時間と捉える必要があります。
受講しなければならない研修
会社が実施する研修や教育訓練への参加は、受講が義務であれば労働時間として取り扱います。また、強制でなくても参加しない従業員が不利益になる場合は、労働時間の一部です。一方で、自由参加の研修や勉強会などに参加する場合は、労働時間とはみなされません。
▼研修の受講管理に課題があるなら以下の記事もご確認ください。
手待ち時間に関する注意点【企業側】
ここまでで、手待ち時間や労働時間に含まれる時間の理解が深まってきたのではないでしょうか。
手待ち時間は、れっきとした労働時間であるため、労働基準法に基づく労働時間として適切に時間を集計しなければなりません。
最後に、手待ち時間を含めた労働時間の正しい管理に向けて、企業が必ず対応しなければならないポイントを紹介します。
残業代を支払う
手待ち時間によって法定労働時間を超過すると、時間外労働が発生するため、必要に応じて残業代を支払わなければなりません。
労働基準法における法定労働時間は「1日8時間、週40時間」です。会社は法令を遵守し、従業員の手待ち時間を正確に把握するように心がけましょう。
休憩時間を適切に確保する
手待ち時間と休憩時間の違いを正確に区別しないと、労働基準法違反のリスクが高まります。使用者は、休憩時間を偶然に空いた時間に取得させるのではなく、事前に定めた時間に与えるよう努めなければなりません。
電話対応や来客対応のための待機が必要な場合は、当番制や交替制を採用して、休憩時間中は従業員を業務から切り離しましょう。
従業員に手待ち時間についての注意点を周知する
使用者は、手待ち時間についての注意点を従業員に対しても周知徹底する必要があります。従業員の休憩時間を確保するには、就業規則において明確なルールを定めることが大切です。
従業員に適切な休憩を与えないと、結果として法的な問題に発展するおそれもあります。休憩中の業務についてのルールを理解させるために、教育や勉強会の実施を検討するのもおすすめです。
まとめ|手待ち時間と休憩の線引きを間違えないように
一見すると働いていないように見えても、従業員が指揮命令下にある状態で待機しているなら、手待ち時間=労働時間です。手待ち時間は従業員の休憩時間を取得する権利や賃金に影響するため、法的リスクも理解しておかなければなりません。
なかには人手不足や繁忙期を理由に、休憩中にもかかわらず指示を出している職場もあるかもしれません。法令違反とならないよう、手待ち時間と休憩時間を明確に区別して、労務管理・勤怠管理を徹底することが大切です。
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