労働時間の端数処理は可能? 法律上のルールや注意点を解説

労働時間の端数処理は可能? 法律上のルールや注意点を解説

労働時間を集計していると、1時間未満の端数が生じ、扱いに困ったことはありませんか。

労働時間の端数処理には、法律上のルールと運用の注意点があります。給与計算にもかかわるため、切り上げ・切り捨ての基準を正確に理解しなければなりません。

本記事では、労働時間の端数処理を正しく行うための実務ポイントを具体例とともに解説します。

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    労働時間の端数処理は可能?

    日々の労働時間の管理において、1分単位の端数をどのように扱うべきかは重要です。 

    切り捨てや切り上げといった処理が可能か否かについて、1か月単位で認められる残業時間の例外的な扱いまで解説していきます。

    労働基準法のルールを踏まえながら、企業として適切な労働管理を行うためのポイントをおさえましょう。

    労働時間は原則1分単位で管理

    労働時間の端数処理の基本ルールは「切り捨ては不可」「切り上げは可」です。原則として、毎日の労働時間は1分単位で正確に管理する必要があります。

    労働時間は(原則)1分単位で集計
    切り捨て×認められない
    切り上げ⚪︎認められる

    「7時間3分」の「3分」のように、1時間未満の端数を切り捨てることは認められていません。同様に「15分未満や30分未満の残業時間は切り捨てる」といった丸め処理もできず、労働基準法違反となります。

    会社の独自ルールを勝手に適用し、労働時間を切り捨てるのは違法です。勤怠管理や給与計算の担当者は注意しましょう。

    一方で端数を切り上げて処理することは可能です。端数の切り上げが労働者にとって有利に働くためです。

    端数の切り捨ては不可と解説しましたが、例外的な処理が認められるケースもあるため、次項で確認していきましょう。

    勤怠の丸めについて詳しく知るには以下の記事もご確認ください。

    1か月の残業時間は端数処理が可能

    「労働時間」の端数処理は原則認められていないものの、例外として「1か月の残業時間」の合計は、一定のルールに基づき端数を処理することが認められています。

    1か月における3つの合計時間に端数が生じた場合は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の端数を切り上げることが可能です。

    たとえば、時間外労働の時間数の合計に10時間29分といった端数が生じた場合、30分未満を切り捨てて10時間とできます。

    ただし、30分未満を切り捨てて処理する場合は、切り上げも同時に実施する必要があるため注意しましょう。

    月の時間外労働の合計対応注意
    (5月)10時間29分→10時間とする⚪︎切り捨てだけ可能にするルールは認められない
    (6月)10時間45分→11時間とする⚪︎
    →10時間45分とする×

    たとえば、10時間29分の端数を切り捨てておきながら、10時間45分を切り上げず、そのまま10時間45分として扱う処理は認められません。

    労働時間の管理方法に不安がある方は以下の資料もご確認ください。


    遅刻や早退があった場合の端数処理

    遅刻や早退などにより、実際の労働時間が所定労働時間に達しない場合は、不足分を差し引いて賃金を支払います。

    遅刻や早退も労働時間は1分単位で処理する必要があります。15分の遅刻に対して、1時間分の賃金を減給するといった端数処理は原則として認められていません。

    しかし、就業規則にあらかじめ明記しておけば、労働基準法における「減給の制裁」として端数の処理が認められます。

    就業規則に「15分や30分の遅刻も1時間として取り扱う」という旨を明記し、遅刻をした従業員へのペナルティとして機能させることが可能です。

    ペナルティを設ける場合は、労働基準法第91条の範囲内で行う必要があります。

    (制裁規定の制限)第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

    『労働基準法』e-Gov法令検索

    減給の制裁は懲戒処分に値し、あらかじめ就業規則に懲戒に関する明記が必要です。

    有効に減給の制裁をできるか否かは、遅刻や早退をした個別の事情に応じて判断しなけれなばなりません。

    遅刻や早退の勤怠管理上の扱いについては以下の記事でご確認いただけます。

    月平均所定労働時間の端数処理

    月平均所定労働時間の計算において、1時間未満の端数が生じた場合の規定は、とくにありません。

    月平均所定労働時間とは文字どおり、1か月の平均的な所定労働時間のことです。時間外労働や深夜労働などにおける割増賃金の計算に用いられます。

    月平均所定労働時間の計算式は、以下のとおりです。

    (1年の暦日数-年間休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月

    月平均所定労働時間に決まりはありませんが、労働者の不利益にならないように扱うのが大前提です。

    端数をそのままにする処理も認められています。ただし、労働者に有利になるよう端数を切り捨てることが妥当であるとされています。

    月平均所定労働時間は、割増賃金の計算に必要な「1時間あたりの基礎賃金」の算定に用いられるためです。

    1時間あたりの基礎賃金=1か月の賃金÷月平均所定労働時間

    1か月の賃金を固定とすると、月平均所定労働時間が多いほど、1時間あたりの基礎賃金は少なくなります。

    1時間あたりの基礎賃金が少なくなると、当然ながら割増賃金の金額も下がってしまいます。

    そのため、従業員の不利益とならないよう、月平均所定労働時間の端数は切り捨てるのが妥当とされているのです。

    労働時間の端数処理における注意点

    労働時間の端数処理においては、基本ルールだけでなく以下の3ポイントをおさえることが大切です。

    • 端数処理のルールを就業規則に明記する
    • 端数処理が認められるのは残業の合計時間のみ
    • 1日単位や1週間単位の残業時間は端数処理できない

    労働時間の端数処理をする際は、従業員に対して公平な基準を示し、透明性の高い運用を心がけましょう。

    端数処理のルールを就業規則に明記する

    労働時間の端数を処理する場合は、就業規則にルールを明記することが大切です。

    端数の切り上げのように、労働者の不利益にならない処理であっても、労務トラブルを防ぐためには、従業員にあらかじめ明示する必要があります。

    とくに遅刻に対する減給制裁は、就業規則に明記されていないと実行できません。

    法律上、許されている範囲を確認したうえで、労働時間の端数処理についてルールを設定し、就業規則に明記しておきましょう。

    端数処理が認められるのは残業の合計時間のみ

    端数処理が認められているのは、あくまでも時間外労働・休日労働・深夜労働、それぞれの1か月あたりの合計労働時間です。

    そもそも労働時間が法定労働時間内に収まっている場合には、端数処理は認められません。

    また、所定労働時間が8時間未満の場合は、法定内残業と法定外残業(時間外労働)を明確に区別する必要があります。

    たとえば所定労働時間が6時間の場合、1日2時間までの残業は、法定労働時間「1日8時間」の範囲内であるため法定内残業です。

    4時間の残業をすると、2時間は法定内残業、残りの2時間が法定外残業(時間外労働)となります。

    1日単位や1週間単位の残業時間は端数処理ができない

    時間外労働・休日労働・深夜労働の各労働時間の合計時間であっても、1日単位や1週間単位での端数処理は認められていません。

    たとえば、時間外労働時間が1日2時間25分だった場合に、25分を切り捨てて2時間とすることは法律違反です。

    1日や1週間単位での残業時間は、1分単位で正確に集計する必要があり、1か月の合計時間でのみ端数処理ができます。

    労働時間の端数処理を正確に行わないリスク

    労働時間の端数処理の規定を守らないと、企業は法的なペナルティだけでなく、社会的な信用を失うリスクが生じます。

    未払い残業代の請求や労働基準監督署による調査にまで発展すれば、経営や企業と従業員の信頼関係にも大きな影響を与えるでしょう。

    労働時間の端数処理を正確に行わないことで、発生する具体的なリスクについて4つ取り上げて解説していきます。

    • 未払いの残業代を請求される
    • 労働基準監督署による調査が入る
    • 社会的信頼が低下する
    • 労働基準法違反による罰則を科される

    未払いの残業代を請求される

    法律上の規定を守らずに労働時間を切り捨てると、労働時間に不足が生じ、残業代を正しく計算できません。

    不適切な運用が常態化していると、賃金の消滅時効である5年分(当面の間は3年間)の未払いの残業代について従業員から請求を受け、訴訟にまで発展するリスクがあります。

    労働基準監督署による調査が入る

    「会社が未払い残業代の請求に応じてくれない」といった理由から、従業員が労働基準監督署に相談することがあります。

    会社に調査が入り、最悪の場合は書類送検されるリスクもあるため、十分な注意が必要です。

    社会的信頼が低下する

    不法な端数処理により賃金や残業代の未払いがあったことが公になれば、企業のイメージダウンは避けられません。

    社会的信頼が低下することで顧客離れが進んだり、従業員のモチベーションの低下を招いたりするリスクもあります。

    労働基準法違反による罰則を科される

    不法な端数処理による賃金や残業代の未払いは、労働基準法第24条および第37条の違反です。

    第24条に違反すると30万円以下の罰金、第37条に違反すると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科されるおそれがあります。

    労働時間以外の端数処理

    労働時間以外にも、従業員の給与計算にかかわる部分では、さまざまな端数が生じます。賃金支払額と割増賃金における端数処理についてポイントを解説します。

    賃金支払額の計算における端数処理

    1か月の賃金支払額の端数については、100円未満の部分を四捨五入することが認められています。

    賃金支払額が25万6,130円の場合は30円を切り捨てて25万6,100円とし、34万8,880円の場合は80円を切り上げて34万8,900円とすることが可能です。

    端数処理の例
    賃金支払額切り捨て・切り上げ端数処理後の金額
    25万6,130円30円切り捨て25万6,100円
    34万8,880円80円切り上げ34万8,900円

    1,000円未満の端数は翌月の支払いに繰り越すことも認められています。

    割増賃金の計算における端数処理

    1か月あたりの割増賃金に1円未満の端数が生じた場合は、50銭未満を切り捨て、50銭以上を切り上げることが可能です。

    割増賃金が2,680.3円となった場合は0.3円を切り捨てて2,680円とし、2万8,499.9円となった場合は0.9円を切り上げて2万8,500円とできます。

    端数処理の例
    割増賃金切り捨て・切り上げ端数処理後の金額
    2,680.3円0.3円切り捨て2,680円
    2万8,499.9円0.9円切り上げ2万8,500円

    割増賃金の計算に用いられる「1時間あたりの基礎賃金」についても、計算結果に1円未満の端数が生じた場合は、50銭未満を切り捨て、50銭以上を切り上げることが可能です。

    給与計算で発生する端数処理ルールを確認するには、以下の記事でもご確認ください。

    労働時間の端数は法律に沿って処理(まとめ)

    労働時間は原則として1分単位で正確に管理する必要があります。1分単位や15分単位などで労働時間の端数を切り捨てることは、法的には認められません。

    一方、端数の切り上げは労働者の不利にならないため、問題ないとされています。

    また、1か月の時間外労働・休日労働・深夜労働、それぞれの合計時間に端数が生じたら、例外として30分未満の端数切り捨て、30分以上の端数切り上げが可能です。

    ルールを守らず勝手に端数を処理すると、未払いの賃金や残業代が発生し、さまざまなリスクを負うことになります。

    法律で認められている範囲を確認し、就業規則に明記したうえで端数処理をするようにしましょう。

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