労働時間管理は企業の義務? 適正な管理に必要な措置と3つのポイントとは
2020年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」にともなう法改正の影響で、労働時間の管理を見直す企業が増えています。労働時間管理が適正にされていない場合は、従業員の賃金計算に影響するだけでなく健康障害につながる恐れもあるため、十分注意しましょう。
本記事では、法改正にともなう労働時間管理をはじめ、ガイドラインや適正な管理に必要なポイントについて詳しく解説します。
すべての企業で必要な労働時間管理とは?
従業員の労働時間を把握することは、従業員の長時間労働を防いで時間外労働を管理し、正確な賃金計算をするために重要なポイントです。
すべての企業で必要な労働時間管理について、くわしく見ていきましょう。労働時間管理の義務や、労働時間と勤務時間の違いについて解説します。
労働時間管理は義務なのか?
労働時間管理は、働き方改革推進の一環として、原則従業員を雇うすべての企業に義務づけられています。2017年1月に厚生労働省が策定したガイドラインより、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての従業員の労働時間を客観的に把握し、管理することが義務づけられました。
この義務は、管理監督者やみなし労働時間制の適用者も対象としているため、役職や雇用形態などに関係なく、原則すべての従業員の労働時間の把握が求められています。
参考:『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』厚生労働省
労働時間と勤務時間の違いは?
労働時間と似た言葉として「勤務時間」があります。どちらも同じ意味合いとして使われるケースも多く見られますが、両者には明確な違いがあります。
勤務時間 | 始業から終業までの「休憩時間」を含めた時間 |
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労働時間 | 勤務時間から休憩時間を差し引いた時間 |
勤務時間は、就業規則に定められているのが一般的です。始業時間が9時で終業時間が18時、途中で休憩を1時間取得する場合、勤務時間は9時間、労働時間は勤務時間から休憩の1時間を引いた8時間となります。
ガイドラインが定める適正な労働時間管理とは
2017年に厚生労働省が定める適正な労働時間管理を実現するための、6つのポイントをご紹介します。
- 始業時刻と終業時刻の確認・記録を徹底する
- 自己申告制で対応する場合は適切な措置を設ける
- 賃金台帳の必要事項を適正に記入する
- 労働時間管理に関連する書類を保管する
- 労働時間管理の責任者が担う職務を把握する
- 必要に応じて労使協議組織を活用する
始業時刻と終業時刻の確認・記録を徹底する
雇用主は、従業員の労働時間を把握する義務があります。始業と終業の時間を確認し、記録することが必要です。タイムカードやICカード、パソコンの使用時間などで労働時間を管理します。
管理者の現認や従業員の自己申告は原則として認められません。ツールを活用して労働時間を客観的かつ正確に記録しましょう。
自己申告制で対応する場合は適切な措置を設ける
従業員の自己申告によって始業時刻や終業時刻を管理することは、原則認められていません。しかし、やむを得ず自己申告制で管理する場合、ガイドラインで定める次の3つの措置を実施する必要があります。
1 | 自己申告を行う従業員や労働時間の管理者に、自己申告制の運用ガイドラインに基づく措置などについて、十分な説明を行う |
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2 | 自己申告による労働時間と、勤怠記録やパソコンの使用時間などから把握した労働時間との間に大きな乖離がある場合には調査し、労働時間の補正をする |
3 | 使用者は従業員が自己申告できる時間の上限を設けるなど適正な自己申告を阻害してはならない。さらに36協定を超えて労働していても、記録上守っているようにすることが、従業員間で慣習的に行われていないか確認する |
口頭での報告など自己申告による勤怠管理は、正確性や信憑性に欠けるだけでなく、長時間労働の大きな原因です。
慢性的な長時間労働の負担を軽減するためにも、従業員に対して労働時間の記録や管理の重要性をていねいに説明しましょう。必要に応じて実態調査を行うなどして、従業員の申告した内容が正しいかどうかを判断することも必要です。
賃金台帳の必要事項を適正に記入する
労働基準法には、賃金台帳に必要な記入事項が定められています。ガイドラインにも、従業員ごとに労働日数や労働時間、休日・時間外・深夜労働時間などを正しく記入しなければならないことが記されています。
賃金台帳に必要な事項 |
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・労働日数 ・労働時間数 ・休日労働時間数 ・時間外労働時間数 ・深夜労働時間数 |
上記5つの内容を正確に記入しましょう。必要事項の記入がない場合、処罰の対象となります。虚偽の内容を故意に記入した場合も、処罰の対象です。
労働時間管理に関連する書類を保管する
ガイドラインでは、労働時間を適切に管理するために、労働基準法第109条に基づいて関連する書類を保管するルールが定められています。
2020年4月1日に法改正された労働基準法では、保管期間が3年から5年に延長されました。ただし、現在は経過措置中であるため3年の保管で足ります。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿や賃金台帳、雇い入れ、解雇、災害補償、賃金そのほか労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない
引用:『労働基準法』e-Gov
労働時間の書類は、最後に記録された日から5年間(経過措置中は3年間)保管しましょう。
また、賃金台帳や源泉徴収簿の保管期間の兼ね合いから、根拠資料となるタイムカードなども7年間の保管を推奨します。保管する書類は、労働者名簿や賃金台帳、出勤簿、タイムカードといった客観的に労働時間が記録されたものです。
労働時間管理の責任者が担う職務を把握する
労働時間の管理責任者や役員には、労働時間の適正な把握など、労働時間の適正化に関する事項を管理し、問題点を把握したり解消したりすることが求められています。
労働時間管理の責任者には、把握した労働時間が適正であるか、従業員に対して過度な長時間労働を強いていないかなど、労働時間管理に問題が生じていないかを確認する義務が課されています。
万が一、改善が必要であれば、適切な措置や対策を検討しましょう。
必要に応じて労使協議組織を活用する
条件を満たせば自己申告による労働時間管理は可能であるものの、労働環境の把握があいまいになりがちです。その際に活用したいのが、労使協議組織です。
ガイドラインにも、使用者は労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じて労使協議組織を活用し、現状を把握したうえで、問題点および解消策などの検討を行うことと記載されています。
参照:『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』厚生労働省
労働時間管理の問題点やその解消策などについて検討が必要な場合は、労働時間等設定改善委員会などの労使協議組織を積極的に活用してください。社内の労働時間管理の状況を鑑みて、適切な判断をしていきましょう。
労働時間の代表的な管理方法
労働時間の管理方法や様式に決まったルールは設けられていないため、企業に合わせて自由に管理方法を選択できます。
代表的な労働時間の管理方法は、次の3つです。
- タイムカードでの管理
- Excelなどの計算ツールでの管理
- 勤怠管理システムでの管理
それぞれの特徴やメリット、デメリットを見ていきましょう。
タイムカードでの管理
タイムカードを使った管理は、昔から行われている方法で、現在も多くの企業で採用されています。出退勤の際にタイムカードを専用のレコーダーに挿入するだけで、打刻ができる仕組みです。
メリット | ・導入コストやランニングコストが安い ・誰でも簡単に使用・管理できる |
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デメリット | ・管理に時間と手間がかかる ・打刻漏れや不正打刻のリスクがある ・集計ミスやデータ改ざんのリスクがある |
タイムカードを活用した管理方法の最大のメリットは、低コストで導入、運用できることです。また、操作性がシンプルであることから、誰でも簡単に使用・管理できます。
一方で、外回りの営業など外勤がある企業では運用が難しいでしょう。さらに、近年のリモートワークの普及などの時代背景から、運用しづらく、管理に手間と時間がかかるというデメリットがあります。
代理打刻などの不正行為により、適正な労働時間の把握がしづらくなるリスクも考えられます。紙ベースからデータを作成する際の集計ミス、データ改ざんなどの恐れがあることも、大きなデメリットです。
Excelなどの計算ツールでの管理
表計算ソフトのExcelなどを使って労働時間管理をすることも可能です。勤務時間の記録をはじめ、勤務時間数や日数の集計もでき、さらには賃金計算にも役立ちます。
労働時間の計算に特化したテンプレートなどもWeb上で簡単に手に入れられるため、手軽に管理したい企業におすすめの方法です。
メリット | ・導入や運用のコストを大幅に抑えられる ・関数やマクロでテンプレートをカスタマイズできる ・データ管理がしやすい |
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デメリット | ・データ入力する手間がかかる ・入力ミスなど人的ミスが起こりやすい ・法改正に対応できない ・ほかのソフトやシステムとの連携が難しい |
もともと使用している表計算ソフトを活用することで、導入コストや運用コストを大幅に抑えられるのが大きなメリットです。さらに、関数やマクロを使ってテンプレートを自由にカスタマイズでき、データ管理をしやすいのもうれしいポイントです。
しかし、データを入力する手間がかかるだけでなく、入力ミスなどのヒューマンエラーが起こりやすいというデメリットもあります。労働に関する法律は高頻度で変更されるため、新しい法改正の内容を反映するのに大きな手間がかかる点にも注意が必要です。
給与計算システムなど、ほかのシステムとの連携もしづらく、Excelデータに対応したシステムに絞って検討しなければならないのもデメリットといえるでしょう。
勤怠管理システムでの管理
勤怠管理システムの活用は、労働時間の記録をはじめ計算や保管など勤怠管理に関する集計をすべて自動で行えるため、近年多くの企業が注目している管理方法です。
メリット | ・勤務時間を正確に把握できる ・従業員の不正打刻を防止できる ・コンプライアンスを遵守した勤怠管理ができる ・勤怠管理業務を効率化できる ・給与計算システムなどほかのシステムと連携できる ・最新の法改正にもアップデートで対応できる |
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デメリット | ・導入や運用のコストがかかる ・導入に多くの工数がかかる ・自社の勤怠ルールに対応できない可能性がある |
勤怠管理システムでは、タイムカードだけでなくICカードやスマートフォン、パソコンなどさまざまな手段で打刻できるため、外勤やリモートワークなど多様な働き方に対応可能です。
賃金計算の個別設定や全体管理もでき、個々の変更にも対応しやすいため、人事の業務負担軽減につながるでしょう。
ただし、導入や運用にはコストがかかります。導入する際には、自社の勤怠ルールに合わせたシステムを検討しましょう。また、一定の工数がかかることの考慮も必要です。
これらのデメリットを考慮しても、勤怠管理システムは労働時間の正確な把握と人事担当者の業務軽減の有効なツールといえるでしょう。
労働時間管理を徹底するためのポイント3つ
労働時間管理を徹底するために、次の3つのポイントを意識しましょう。
- 労働基準法の遵守
- 適切な人材雇用と配置
- 適正な労働時間管理の重要性を社内周知
それぞれの内容について詳しくご紹介します。
1.労働基準法の遵守
労働時間を管理する際の基本的な考えとして、労働基準法で定められている法定労働時間を守ることが挙げられます。労働基準法で定められている従業員の労働時間は、原則「1日8時間・週40時間」です。
企業が従業員に残業をさせる場合、36協定という労使協定の締結が必要です。これは時間外労働を規定するものです。
しかし、たとえ36協定を締結しているからといって、いくらでも残業させてよいという訳ではありません。届出をしている上限を超えて従業員を働かせてしまうと、労働基準法に違反することになるので注意が必要です。
法定労働時間や時間外労働時間の上限は、労働者の健康障害を防ぐために設けられています。適正な労働時間を守るために、法令を遵守していきましょう。
2.適切な人材雇用と配置
長時間労働を廃止するためには、適切な人材雇用と人員配置が重要です。
業務に対する労働者の人数が不足している場合や従業員数が不足している場合は、従業員一人あたりの業務量は必然的に増加します。結果として、労働時間を延ばさざるを得なくなるでしょう。
適正な労働時間で働いてもらうためには、必要な人員数の確保に加え、業務に必要なスキルを持ち合わせた最適な人材配置を行うことが大切です。必要に応じて新しい人材を雇用しながら、企業としての労働生産性を高めていきましょう。
3.適正な労働時間管理の重要性を社内周知
適正な労働時間で働いてもらうためには、マネジメント層はもちろんのこと従業員全員の理解が必要です。
人事部門だけが高い意識を持って時間管理の重要性を訴えたとしても、これまで慣れ親しんできた働き方が変わることへの反発や、システム導入がスムーズに進まないなどの問題が発生する恐れがあります。
適正な労働時間で働くことの重要性やメリットについて時間をかけて周知していき、従業員一人ひとりの意識改革を進めましょう。
労働時間管理の注意点
労働時間を管理するうえで、いくつか注意すべきポイントも存在します。
- 法令違反は罰則につながるケースもある
- 管理監督者の労働時間管理は内容が異なる
それぞれの注意点をくわしくご紹介します。
法令違反は罰則につながるケースもある
法定労働時間の超過や時間外労働時間の上限の超過は、罰則につながるおそれがあります。
労働時間の把握義務に違反したとしても、直接的な罰則はありません。しかし、適切に労働管理ができないことにより時間外労働時間の上限を超過した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるため、注意が必要です。
法令違反による罰則だけでなく、社会的評価が低くなるリスクもあります。企業には、法令に違反しないよう徹底した労働時間管理が求められているのです。
管理監督者の労働時間管理は内容が異なる
管理監督者の労働時間管理の内容は、一般従業員とは大きく異なります。
労働基準法での管理監督者とは、労働条件の決定や労務管理において経営者と一体的な立場にある者を指します。みずから労働時間や休日を決定できる権利を持つため、たとえ時間外労働や休日出勤が発生した場合であっても、割増賃金は適用されません。
ただし、深夜勤務をした場合の割増賃金や有給休暇制度は一般従業員と同様に適用されるので、混同しないように注意しましょう。
労働時間管理に勤怠管理システムを活用するメリット
労働時間管理に勤怠管理システムを活用するメリットは、次の3つです。
- 労働時間管理にかかる業務負担を軽減できる
- 記録の保管・検索が容易になる
- 不正や入力ミスなどを防ぐ
それぞれの内容についてご紹介します。
労働時間管理にかかる業務負担を軽減できる
勤怠管理システムの導入によって、労働時間管理にかかる業務負担を大幅に軽減できます。
ガイドラインで求められている長時間労働などの解消を行うためには、さらなる人員が必要になり、その分管理者の業務負担も増えてしまうはずです。
しかし、勤怠管理システムを導入すれば、これまでの管理方法のようにデータを手入力する必要はなくなります。労働時間の集計や賃金計算なども一括でできるため、人事担当者の労務負担を大幅に減らすことにつながるでしょう。
記録の保管・検索が容易になる
タイムカードを使って労働時間を管理する場合、5年分(経過措置中は3年分)のカードの保管が必要です。収集の手間や場所の確保・管理に手間がかかるほか、紛失などのリスクもあります。過去の記録をさかのぼることも困難でしょう。
Excelなどの表計算ツールを活用すれば、データ保管が容易にできます。しかし、データの保管場所がわからなくなったり、最悪の場合、誤って削除してしまうリスクもあります。
勤怠管理システムを活用すれば、データをシステム内で管理できるほか、必要な記録を簡単に検索できるでしょう。
不正や入力ミスなどを防ぐ
タイムカードや表計算ツールを活用する場合、代理打刻や虚偽入力などの不正行為を防ぎにくいというデメリットがあります。従業員による打刻忘れや管理者の入力ミスなどのヒューマンエラーも発生しやすいでしょう。
そのほかにも、データ補正に時間がかかること、真偽の確認が難しいことなど、運用するうえでさまざまな問題が存在します。
勤怠管理システムには、打刻を忘れないようにするアラーム機能がついていたり、不正打刻を防ぐための顔認証やGPS認証などの機能を備えていたりするものもあります。
労働時間は勤怠管理システムを使って正しく管理
従業員を雇用する企業にとって、労働時間管理は義務です。
企業の規模や従業員の雇用形態に関係なく、労働時間の客観的な把握と管理は必要です。多様な働き方や法律の改正に対応するためにも、勤怠管理システムを使った労働時間管理がおすすめです。労働時間に限らず、勤怠管理におけるすべての煩わしさを一気に解決してくれるでしょう。
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