管理職の労働時間に制限はある? 法律上の規定を解説
「管理職は労働時間の制限を受けない」というイメージを持つ方もいますよね。
実際には管理職だからといって、すべての労働時間が自由なわけではありません。「管理監督者」として扱われるかどうかで、法律上の規定や労務管理の方法が変わります。
本記事では、管理職の労働時間にまつわる誤解を整理し、法律に基づいた正しい対応方法を解説します。
そもそも法律上の管理監督者の判断基準について、基礎からおさえておきたい方は、以下の記事もご確認ください。
36協定は管理職にも適用されるのか|労働時間を把握する方法を解説
管理職にも労働時間の制限はあるのか?
管理職の労働時間について、労働基準法でどのように定められているのか気になる方もいるでしょう。管理職が労働時間の制限を受けるのかは、実際の業務内容や権限の範囲、待遇などによって異なります。
管理職とは? 管理監督者との違い
管理職とは、会社の組織内で従業員を指揮・管理し、業務を統括するポジションのことです。たとえば部長や課長、係長などの役職者が管理職に該当します。しかし、必ずしも労働基準法上の「管理監督者」と同一ではありません。
管理職と管理監督者は、同じように扱われがちですが、法律上は異なる概念です。管理監督者は経営に密接に関与し、企業全体の方針決定や重要な責任を担うため、法律上特別な扱いを受けます。
管理監督者には労働時間に制限がない
管理監督者は、労働基準法第41条の該当者として、労働基準法第32条の適用がないため、労働時間の規制がありません。
労働者には1日8時間や週40時間の上限が設けられていますが、管理監督者には制限が適用されないのです。残業時間の上限も存在せず、通常の労働者に適用される36協定の対象外となります。
36協定の内容について確認したい場合は以下の記事をご確認ください。
管理職でも管理監督者でない場合は労働時間に制限がある
一般的に企業の中で「管理職」と呼ばれていても、経営者と一体的な責任がなく、職務相応の待遇を受けていなければ「管理監督者」とはいえません。管理監督者とみなされない管理職は、一般労働者と同じく労働時間に制限があると考えられるでしょう。
管理監督者と判断される基準 |
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・重要な職務を担っている ・経営者と一体的な責任と権限を有している ・勤務時間の制限を受けていない ・職務相応の待遇を受けている |
管理監督者の判断基準について、より深く知りたい方は、以下の記事もご確認ください。
本記事ではこれ以降、特に断りがない限り「管理職」が法律上の「管理監督者」を指すものとして、解説を進めます。
管理職に労働時間の制限がないリスク
管理職(管理監督者)は、法的に労働時間の制限はないため、自身の裁量で業務を管理しなくてはなりません。
しかし、法的に労働時間の制限はないものの、常識の範囲を超えた長時間労働は、人道的な観点や安全配慮義務の観点から問題です。
労働時間が制限されないことは、企業運営にとって柔軟性が高まる一方で、以下のようなリスクをともないます。
- 長時間労働による健康被害
- 名ばかり管理職としての違法性
管理監督者であっても労働時間を適切に把握し、健康被害の防止や労働環境の改善に努めなければなりません。
管理職に限らず労働時間の管理に課題がある方は以下の資料をご活用ください。
月80時間を超える場合は面接指導の対象に
管理職も、労働安全衛生法による健康管理に関する義務が適用されます。
具体的には、2~6か月平均で月80時間を超える時間外労働が発生する場合、本人の申し出に基づいて医師による面接指導が義務づけられているのです。
このルールは、労働者の健康を守るために設けられた措置であり、管理職(管理監督者)も例外ではありません。
面接指導の実施について詳しく確認したい方は以下の記事をご確認ください。
月100時間を超える場合は過重労働に
管理職の残業が月100時間を超えると「過重労働」として法的・健康的なリスクをともないます。残業月100時間とは、1日平均5時間の残業を20日以上続けたことを意味します。
無理な働き方が常態化すると、過労死ラインを超えてしまい、重大な健康リスクが懸念され、労災認定の可能性も高まるため配慮が必要です。
過労死ラインについて基本をおさえたい方は以下の記事をご確認ください。
管理職の労働時間も把握する義務がある
労働安全衛生法の改正により、管理職(管理監督者)の労働時間を把握することが企業の義務となりました。
従来、管理職は自身の裁量で働くことが多く、労働時間の管理が不十分になりがちでした。しかし法改正を受けて、管理職の労働時間も企業が適正に管理しなければならなくなっています。
具体的には、タイムカードや勤怠管理システムなどを活用し、管理職の労働時間を正確に記録することが求められます。記録は従業員の健康管理や法令遵守を徹底するために不可欠です。また適切な記録を保持することは、企業の信頼性を高めるだけでなく、労働環境の改善にもつながるでしょう。
管理監督者の自己裁量にも限度はある
労働基準法における管理監督者は、労働時間や休憩・休日の規定から除外され、みずからの裁量で働くことが認められています。しかし「裁量」には限度があります。
たとえば、頻繁に遅刻や早退を繰り返し、社内業務に支障をきたす行動は、尊厳や信頼がなくなってしまいます。また、業務の進行に重大な影響を与える行為や、会社全体の運営に支障となるような行為も「自己裁量」の範囲を超えた不適切な行動とみなされるでしょう。
管理監督者には、裁量を活用しつつも、組織全体の利益を優先し、ほかの従業員の模範となる行動が求められます。バランスを保つことが、役職者としての信頼を高め、会社運営に貢献するために不可欠です。
管理職(管理監督者)の労働時間に関連する規定
続いて管理職(管理監督者)の働き方や労働時間に関連する、その他の法的ルールを紹介します。
ここまで解説してきたように、管理職が管理監督者としてみなされる場合、基本的に労働基準法における労働時間の制限を受けません。しかし、安全配慮義務の観点からすべてが自由というわけではなく、労働時間の実態把握の必要性とともに、例外や企業が留意したいポイントも存在します。
管理監督者の労働時間に関連する主な規定は以下の4点です。
- 休日に関するルールが適用されない
- 休憩時間に関するルールが適用されない
- 残業代が支払われない
- 深夜労働と有給休暇に関するルールは適用される
以上を理解することで、管理監督者の労働環境を適切に整えるための知識が深まるため確認していきましょう。
休日に関するルールが適用されない
管理監督者には、労働基準法第35条で一般労働者に保障されている「週1日または4週4日の休日取得」の規定が適用されません。そのため、休日出勤をしても割増賃金が支払われない可能性があります。
ただし、管理監督者であっても健康管理の観点から適切な休日の設定が不可欠です。法定休日に関する規定が適用されないというだけであり、企業は就業規則や個別契約を通じて休日の運用を調整する必要があります。
管理監督者の負担を軽減し、働きやすい環境を確保することが大切です。
管理監督者の休憩時間は会社の裁量にゆだねられる
管理監督者は、労働基準法で定められた休憩時間の規定が適用されません。法的には6時間を超える勤務には45分、8時間を超える勤務には1時間の休憩が義務づけられていますが、管理監督者は対象外です。
しかし、管理監督者に休憩時間を設けてはならないという意味ではありません。企業が管理監督者に適切な休憩を提供することは可能であり、長時間労働による健康リスクを軽減するために重要です。
管理監督者の休憩時間をどう運用するかは、企業の裁量次第であるため、労働環境の整備の一環で検討しましょう。
残業代が出ない
管理監督者に対しては、時間外労働や休日労働に対する割増賃金(残業代)を支払う義務がありません。管理監督者が自身の裁量で働くことを前提としているためです。
ただしルールを悪用して、実際には管理監督者としての権限や役割を持たない従業員を「名ばかり管理職」として扱い、残業代を支払わないケースが問題となっています。
該当の行為は労働基準法違反にあたり、訴訟や罰則の対象となる可能性があるため、管理監督者の定義や実態を正しく理解し、適切な対応を取りましょう。
深夜労働・休暇に関するルールは適用される
深夜労働の法的ルールは、例外的に管理監督者にも適用されます。22時から翌朝5時までの深夜時間帯に労働が発生する場合、管理監督者にも通常の労働者と同様に25%以上の割増賃金が支払われなければなりません。
また有給休暇の取得についても、管理監督者は一般の労働者と同様の権利を持っています。
2019年の法改正によって、有給休暇の5日以上の取得が義務化されました。管理監督者にも年次有給休暇の付与義務が適用されます。
管理職(管理監督者)の労働時間を管理する方法
管理職(管理監督者)は、労働基準法上、労働時間の制限が適用されません。しかし、働き方改革や労働安全衛生法の改正により、管理職の労働時間を企業が把握し、適切に管理することが義務づけられています。
労働時間を正確に記録し、過重労働を防ぐことは、管理職の健康を守るだけでなく、企業が法令を遵守し、リスクを回避するためにも重要です。
そこで管理職の勤怠管理を行うための具体的な方法と、それぞれの特徴や注意点を解説します。
タイムカードを使用する
タイムカードは、管理職の勤怠を管理する方法の一つです。タイムカードを使うことで、出勤時間と退勤時間を正確に記録でき、労働時間の客観的な証拠を残せます。
企業はタイムカードによって、労働基準法で定められた労働時間の把握義務を果たし、管理職が過剰な時間外労働をしていないかどうかのチェックが可能です。導入コストやランニングコストが少ないため、導入しやすいでしょう。
ただし、タイムカードは勤怠管理が手軽な一方で、効率的に集計するシステムがなければ管理が煩雑になる点が課題です。
出勤簿を作成する
出勤簿は、タイムカードの代替として、紙やExcelなどで作成する方法です。法定三帳簿の一つであるため、必ず作成が必要です。
出勤簿には、日々の出勤・退勤時間や休憩時間が記録され、労働時間の把握に役立ちます。しかし出勤簿は手書きのため、不正確な記録や入力ミスが発生しやすく、あとから確認する際、信頼性に欠けることがあるでしょう。
手書きで記録されたデータは、法的な証拠としての効力が薄い場合があります。したがって、出勤簿を使用する場合でも可能な限り正確に記録し、一定の管理手法と組み合わせるとよいでしょう。
勤怠管理システムを導入する
管理職における勤怠管理の正確性と効率化を求めるなら、勤怠管理システムの導入が効果的です。
労働時間の実態をリアルタイムで把握し、出退勤記録の正確性を確保することで、労働基準法に基づく管理を実現します。
タイムカードやICカード、スマートフォン、パソコンなどさまざまな打刻方法があり、環境が整えば、時間と場所を選ばない点も、テレワークにも対応しやすく支持されています。
また給与計算に必要な休憩時間や休日労働、時間外労働などの自動で集計できるシステムなら、給与計算業務と一体的な効率管理が可能です。
勤怠管理システムのタイプや実現できることを確認したい場合は、以下の記事もご確認ください。
管理職の労働時間を減らす方法
管理職の労働時間が長時間化すると、健康問題や生産性の低下、組織全体の働き方改革の進展を妨げる原因になります。また個人の問題にとどまらず、企業全体の働き方改革にとっても重要です。
管理職の労働時間を減らすには、企業全体で労働時間を適切に管理し、効率的な働き方を推進することが求められます。具体的には、以下の組織的な2つの対策が必要です。
- 「残業を是」とする会社の意識を変える
- 実情を把握して業務を最適化する
管理職が健康的で効率的に働ける環境を整え、企業全体の生産性向上と働きやすい職場づくりにつなげましょう。
残業を是とする会社の意識を変える
管理職の労働時間を減らすには「残業を是」とする根強い文化を見直し、会社の意識を変える必要があります。
「残業をすることが評価につながる」という考え方が、管理職の労働時間を長時間化させる大きな要因の一つです。
長時間残業することを「偉い」や「頑張っている」と捉える風潮があると、残業削減の取り組みが進みません。
具体的には以下のような取り組みが必要です。
経営層が率先して行動 | 経営層が「定時退社」を実践し、残業を避ける姿勢を示す。組織全体に新たな文化を浸透させる |
残業削減の仕組みづくり | 「ノー残業デー」を設けたり「フレックスタイム制度」など柔軟な働き方を導入したりする |
トップダウンで企業全体の文化を変え、従業員が残業を避けやすい環境整備がポイントです。
実情を把握する
管理職の労働時間を減らすためには、管理職の労働時間や業務内容を可視化し、正確に把握する必要があります。
労働時間の記録 | 勤怠管理システムを活用して、管理職の労働時間を可視化 |
業務の分析 | 業務ごとにかかる時間を分析し、特に時間を要している業務を特定。改善点の特定 |
業務分担と自動化 | 業務が特定の管理職に集中している場合、チーム内で分担を見直し。ツールやシステムを導入して、自動化できる業務を見つけ、効率化をはかる |
労働時間の記録や勤怠管理システムを活用して、どの業務に時間がかかっているのかを分析することで、効果的な改善策を打ち出せるでしょう。業務が集中している管理職がいる場合、業務の一部をほかのメンバーに分担することや、自動化できる業務の見直しなども必要です。
→労働時間の実態を把握するOne人事[勤怠]の特徴を見てみる
管理職の労働時間も適切に管理(まとめ)
管理職は労働時間の規制が一部免除されますが、働き方を把握することは企業にとって極めて重要です。適切な労働時間の管理は、業務の効率化やモチベーションの向上につながります。
また、過度な残業や労働時間の長期化が問題となると、健康への悪影響や職場環境の悪化につながるリスクもあるため、管理職であっても適切な労働環境を整えることが必要です。労働時間を正確に把握し、働きやすい環境づくりに努めましょう。
管理職の労働時間の実態把握にも|One人事[勤怠]
勤怠管理システムOne人事[勤怠]は、管理職を含め、さまざまな働き方に対応するクラウドツールです。
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One人事[勤怠]の初期費用や操作性については、当サイトより、お気軽にご相談ください。専門のスタッフが貴社の課題をていねいにヒアリングしたうえでご案内いたします。
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