うつ病になった従業員は解雇できる? 不当解雇となるケースも詳しく解説

うつ病になった従業員は解雇できる? 不当解雇となるケースも詳しく解説

最近では、職場でのストレスや人間関係をきっかけに、うつ病や適応障害などの精神疾患を発症する人が増えているといわれます。自社の社員が似たような状況にあり、対応に悩まれている経営者・人事担当者もいるのではないでしょうか。

  • うつ病を発症した従業員が復帰できるのか
  • ほかへの影響を考慮して解雇という判断もあるのか

本記事では、うつ病による解雇が法的に認められるケースや、企業側がしてはいけない対応、不当解雇にあたるかどうかの基準についてわかりやすく解説します。

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目次アイコン目次

    うつ病になった従業員を辞めさせられる?

    うつ病になったという理由だけで、従業員を解雇することはできません。

    労働基準法第19条により、企業が従業員を解雇するには、以下の条件が認められる必要があるためです。

    • 解雇の客観的に合理的な理由
    • 社会通念上の相当性

    解雇権の濫用とみなされる解雇は無効とされています。

    誰もが病気になるリスクがある以上、病気になっただけで解雇されてしまっては、従業員は安心して働けません。従業員がうつ病を発症してしまった場合も、企業ごとの就業規則に沿って休職させるのが望ましいでしょう。

    うつ病になった従業員を解雇する判断は、法的にも社会的にも慎重に対応しなければなりません。

    参照:『労働基準法』e-Gov法令検索

    ▼従業員の健康管理は、本人だけでなく企業にも一定の責任が求められています。健康管理がなぜ経営課題として重要なのか、詳しくは以下の記事で解説しています。

    うつ病を理由に解雇できるケース

    うつ病を理由とする解雇は慎重な判断が必要ですが、すべてのケースで絶対に解雇できないわけではありません。

    企業が適切な手順を踏んだうえで、法的にも社会的にも妥当とされる場合に限り、解雇が認められることもあります。

    以下では、法的に「やむを得ない」とされる3つの代表的なケースを紹介します。

    • 休職期間満了後も復職困難との診断が出ている
    • 配置転換や業務量の調整でも復職が困難である

    休職期間満了後も復職困難との診断が出ている

    うつ病の従業員の休職期間が満了し、主治医から「復職は困難」と診断されている場合、解雇が認められる可能性があります。

    仕事ができない心身の状態では、いきなり解雇するのではなく、まずは休職させて治療に専念してもらうのが一般的です。多くの企業において、就業規則に休職を認める期間が定められており、まずは規定どおり休職させる必要があります。

    従業員は、休職期間が満了する時点で「復職するのか」、それとも「退職するのか」を判断します。そのとき主治医が、「復職は困難」と診断しているのであれば、企業としても雇用継続は難しく、解雇は致し方ないといえるでしょう。

    ▼休職制度をおさらいするなら、以下の記事もご確認ください。

    ただし、次の2つのケースでは、原則としてうつ病の従業員を解雇できません。

    • 主治医が復職できると診断している
    • うつ病の原因が、職場における長時間労働やセクハラ、パワハラにある

    以上のような状況での解雇は、不当解雇として訴訟や労働紛争に発展するリスクがあるため、判断には注意が必要です。

    配置転換や業務量の調整でも復職が困難である

    うつ病の従業員に対して、企業が最大限の配慮をしても復職が難しい場合、解雇が認められる余地があります。

    うつ病になった従業員の解雇に踏み切る前に、できる限り職場復帰を支援する努力が求められます。企業側には、具体的に次のような対応が必要です。

    • 業務内容や勤務時間の調整
    • リモートワークの導入
    • 部署異動や配置転換
    • 必要に応じて専門家によるアドバイスを受ける

    最大限の手を尽くしてもなお、勤務が難しい場合は、企業としての配慮義務を果たしたと評価され、解雇が認められる可能性があります。「できる限りの対応をした」と説明できる記録を残しておくことが重要です。

    参照:『労働基準法』e-Gov法令検索

    うつ病になった従業員を解雇・退職扱いとする場合の進め方

    うつ病になった従業員を、やむを得ず退職・解雇とする場合でも、段階的に対応する必要があります。いきなり解雇通知を出すのは、不当解雇として高額な損害賠償を請求されるおそれがあり、避けなければなりません。

    以下では、実務上の進め方を6つのステップに分けて解説します。

    1. 医師への受診を勧め診断書を提出してもらう
    2. 業務量の軽減や配置転換を検討する
    3. 休職命令(通知)を出す
    4. 退職勧奨をする
    5. 休職期間の満了による退職を決定する
    6. 解雇または自然退職を決定する

    1.医師への受診をすすめ、診断書を提出してもらう

    まず最初に、うつ病の疑いがある従業員に対して、専門医や産業医の受診を促すことが重要です。

    うつ病は外見から判断しにくく、本人が自覚していないこともあります。企業としても、正確な診断がないままではリスクが大きいため、専門家による判断を仰ぎましょう。

    うつ病であると診断された場合は、休職や業務量の調整といった方針を検討します。医師からの診断書は、病名だけでなく「休職の必要性」「治療期間の見込み」「職場復帰の可否」が明記されているのが一般的です。

    従業員本人が受診を拒む場合は、有給休暇の利用や勤務時間の短縮など、体調に配慮した対応を検討してもよいかもしれません。

    2.業務量の軽減や配置転換を検討する

    次に、従業員が無理なく働ける環境を整えます。うつ病の症状が軽度である、または職場環境が原因ではない場合は、業務量の見直しや配置転換で就労が継続できることもあるためです。具体的には、可能な範囲で次のような対応が求められます。

    • 勤務時間の短縮
    • 担当業務の一時的な変更
    • 緊急性の高くない仕事への配置
    • 出社頻度の調整
    • 在宅勤務

    企業には、従業員が安全に安心して働けるように配慮する義務である「安全配慮義務」が課されています。配慮が不十分なまま通常業務に戻せば、症状が悪化した場合に、企業の「安全配慮義務違反」として責任を問われるため注意しましょう。

    3.休職命令(通知)を出す

    うつの症状が重く就労が困難な場合は、就業規則に沿って休職命令を出します。就業規則に休職規定があるかを確認し、手続きを進めましょう。書面で通知し、本人に内容を十分説明する配慮も欠かせません。

    休職制度は、一時的に労務提供義務を免除し、治療と回復に専念する期間を確保するために設けられています。単なる欠勤とは異なり、制度の利用には就業規則の根拠が必要です。

    現状、就業規則に休職の定めがない場合、うつ病によって欠勤や遅刻・早退といった素行不良が繰り返されると、やむを得ず普通解雇の検討に至るケースもあります。ただし、そのようなときも、うつ病が長時間労働やパワハラを原因とするものではないか、慎重に判断しましょう。

    4.退職勧奨をする

    休職や復職支援を経ても状況が改善しない場合には、「退職勧奨」を検討します。

    退職勧奨とは、企業が従業員に対して自発的な退職を促す行為です。従業員の同意がなければ成立しないため、決して一方的に迫るような言動をしてはいけません。「しつこく退職を迫る」「断っても繰り返し面談をする」といった行為は、退職強要にあたり違法です。

    とくにうつ病のような精神疾患を抱える従業員に対する退職勧奨は、精神的に強いショックを与えかねません。言葉選びや伝え方に十分な配慮が必要です。

    また、退職勧奨により合意に至った場合、退職区分は会社都合とするのが一般的です。公的手続きでは、離職理由を間違えないようにしましょう。

    5.休職期間の満了による退職を決定する

    就業規則に「休職期間満了後も復職できない場合は自然退職とする」と明記されていれば、規定に基づいて退職扱いが可能です。

    うつ病に限らず、従業員が休職満了になっても復職できない場合に適用されます。

    ただし、自然退職に至るまで本人とのコミュニケーションを重ねる必要があります。一方的な「通告」ではなく、経過を共有しながら進めることが重要です。退職事由や経緯、休職中のやり取りは文書やメールで記録しておくと、トラブル防止につながります。

    6.解雇を決定する

    就業規則などに自然退職の規定もなく、うつ病になった従業員と、退職勧奨の合意が得られず、かつ復職も困難な場合は、普通解雇の検討に入ります。

    解雇という選択は、企業にとっても極めてリスクが高い対応です。以下の条件を満たしていない限り、解雇が無効と判断される可能性があります。

    • 診断書により、長期にわたる就労困難が医学的に明らかである
    • 配慮・支援を十分に行ってきた履歴がある
    • ほかの選択肢(配置転換・勧奨退職など)をすべて検討・実施している
    • うつ病が労災(長時間労働やパワハラなど)にあたらない

    判断が難しいときは、専門家と相談しながら進めることが不可欠です。

    ▼一般的な解雇の条件を知るには、以下の記事もご確認ください。

    ▼退職手続き全般に不安があるなら、以下の資料をご活用ください。

    うつ病への対応に備えて企業ができること

    うつ病による解雇リスクを防ぐためには、企業としても、問題が深刻化する前の「予防」が大切です。とくに企業としては、職場環境を起因とする発症は避けなければなりません。

    以下では、企業が取り組みたい3つの対策を紹介します。

    メンタル不調に悩む従業員が増えるなか、職場全体で「心の健康」を守る意識が、結果的に人材の定着や企業リスクの低減につながります。

    ▼離職率にお悩みの企業は、以下の資料もご活用ください。

    就業規則の見直し

    まずは、休職制度や復職の基準が、就業規則に明確に定められているか確認しましょう。

    とくに以下の3点が不明確なままでは、実際にうつ病の従業員が出た際、企業側も適切に対応できなくなります。

    • 休職制度の有無・内容
    • 休職期間の延長の有無
    • 休職期間満了後の復職が困難なケースの取り扱い
    • 自然退職が可能か

    休職制度は法的に義務づけられているわけではなく、企業が任意で決められるものです。定める場合も、自由に制度を設計できます。

    うつ病になった従業員を解雇するのは、容易ではありません。対応に一貫性を保ち、不当解雇のリスクを回避するためにも、制度を整備しておきましょう。就業規則の内容を変更したら、変更後の周知も不可欠です。

    ▼就業規則の変更手続きを知るには、以下の記事をご確認ください。

    労働環境の整備・改善

    過酷な職場環境は、従業員のメンタルヘルスに少なからず影を落とします。うつ病の発症には、個人の特性や私生活でのストレスなど複数の要因が絡むはずですが、過重労働や職場の人間関係が影響をしているケースも少なくありません。

    原因が職場にあるのなら、二度と起こらないよう、改善に取り組む必要があります。過度なノルマやパワハラ気質の言動の放置など、働きにくさは根本から排除していきたいところです。

    従業員がうつ病になってからの対処ではなく、メンタル不調が起きにくい職場づくりが大切です。

    ▼ハラスメント対策には以下の資料をご活用ください。

    ストレスチェックやメンタルヘルス研修の実施

    うつ病の早期発見・早期対応の仕組みづくりとして、ストレスチェックの活用は有用です。

    2025年5月現在、従業員50人以上の事業所では、年に一度ストレスチェックの実施が義務化されています。今後、50人未満の全事業所や業務委託にも対象が拡大されます。

    また、以下のような対策の実施もおすすめします。

    • メンタル不調のサインに気づくための教育
    • 上司・同僚の対応力を高めるコミュニケーション研修
    • 本人が相談しやすい体制づくりの周知

    従業員一人ひとりの気づきが、深刻な事態を防ぐきっかけになりうるかもしれません。

    ▼具体的なメンタルヘルス対策を知るには、以下の記事をご確認ください。

    まとめ|うつ病をきっかけとした解雇は不当にならないように

    うつ病は、一部では「脳のバグ」ともいわれ、誰もがかかる不調です。大切なのは、発症した従業員を責めることではなく、背景にある職場のあり方を見直し、再発防止や全体の健康維持につなげることです。

    やむを得ずうつ病をきっかけに従業員を解雇する場合でも、適切な手順を踏まないと不当解雇とみなされます。慎重に判断しなければなりません。

    いきなり解雇ではなく、まずは就業規則に基づいて休職制度を適切に活用することが重要です。法的な判断や制度運用に不安がある場合は、労務に詳しい専門家への相談をおすすめします。

    企業としてできることを一つひとつ積み重ね、従業員と企業双方にとって安心できる職場づくりが実現していきましょう。

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