離職票の特定理由離職者の範囲や該当する人とは? 特定受給資格者との違いもあわせて解説
退職予定の社員から特定理由離職者に該当するか質問されたり、離職票を作成している際に退職者が特定理由離職者に該当する可能性があることに気づいたりなど、特定理由離職者に関する疑問や悩みを抱えている人事・労務担当者も少なくないでしょう。
特定理由離職者とは「雇い止め」や「正当な理由がある自己都合」によって退職した人を指します。この特定理由離職者は、会社が助成金を受け取る際に影響をもたらすため、該当する人の範囲を理解しておく必要があります。
本記事では、特定理由離職者の概要や範囲をはじめ、特定理由離職者とよく比較される特定受給資格者についても詳しく解説します。虚偽により失業手当を不正受給をした場合、どのような処罰が下されるかについてもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
離職票における特定理由離職者とは?
特定理由離職者とは、やむを得ない理由により離職した人のことです。病気やけがなどの正当な理由があり自己都合で離職した人も、特定理由退職者の対象です。
参照:『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断』厚生労働省
離職票における特定理由離職者の範囲と判断基準は?
特定理由離職者に該当する場合は、大きく分けて次の2つです。
- 雇い止めで離職した
- 正当な理由で自己都合退職した
雇い止めで離職した人が特定理由離職者と判断されるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
- 期間の定めのある労働契約の期間を満了した
- 労働契約の更新、または延長があることが明示されていた
- 労働者が契約更新を希望したのにもかかわらず、合意が成立しなかった
上記条件のうち、1つでも該当しないものがあった場合は、雇い止めによる退職だったとしても特定理由離職者として認定されません。
離職票における特定理由離職者に該当する具体例は?
離職票における特定理由離職者に該当する具体例を確認してみましょう。
体力不足や心身の障害
労働者が業務に必要な体力を維持できず業務にあたることが困難な場合や、心身の障害や疾患によって業務の遂行ができなくなったことにより離職したケースが当てはまります。
職場環境の調整がされなかったり、必要なサポートを受けられなかったりする場合に適用されます。離職票を提出する際、体力不足や心身の障害があることを証明するために、医師の診断書の提出が必要です。
妊娠や出産、育児
妊娠や出産、育児を理由に離職した場合も、特定理由離職者に当てはまります。
たとえば、妊娠にともなう体調の変化や医師からの勧告により、労働が困難になった場合などが当てはまります。具体的には、離職の日の翌日から引き続き30日以上職業に就けないことを理由に、失業手当の受給期間の延長措置を受けた場合が対象です。
離職票を提出する際は、受給期間延長通知書の提出が求められます。
父母の扶養
両親の死亡や疾病、負傷によって介護が必要になるなど、家庭事情の急変を理由とする離職の場合も特定理由離職者に当てはまります。
常時介護を必要とする親族の疾病、けがなどを理由に離職したとする条件として、所属する企業や事業者に対して離職の意思を伝えた時点で、看護を必要とする期間がおおむね30日を超えることが見込まれていたことを証明しなければなりません。
離職票を提出する際に、健康保険証や医師の診断書、扶養控除等申告書の提出が求められます。
配偶者や親族との別居生活が困難
配偶者や親族との別居生活が困難と判断されるケースも、特定理由離職者に該当します。
たとえば、配偶者や扶養すべき親族との別居生活を続けることが、経済的事情などから困難と判断された場合や、転勤などを理由に家族との同居が困難な場合も特定理由離職者に当てはまります。
離職票を提出する際に、転勤辞令や健康保険証、住民票の写し、扶養控除等申告書などの提出が必要です。
通勤不可能
職場へのアクセスが制限される場合や労働者の身体的・精神的な状況によって通勤が難しい場合、さらには結婚にともなう住所の変更など、さまざまな事情によって事業所への通勤が困難になった場合も、特定理由離職者に該当します。
自分の意に反して事業所への通勤が困難なエリアに転居した場合や事業所が遠方に移転した場合、通勤可能なエリアで保育所が見つけられなかった場合などに適用されます。
通勤不可能となった理由によって提出すべき書類が異なるため、詳しくは厚生労働省の『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準』を確認してください。
希望退職者へ応募
人員整理などを目的とした希望退職者の募集に応募をして退職した場合も、特定理由離職者に当てはまります。必要な書類は、管轄のハローワーク窓口に問い合わせて確認してみましょう。
参照:『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断』厚生労働省
離職票における特定受給資格者とは?
特定受給資格者とは、倒産や解雇など会社都合によって再就職の準備が満足にできないまま離職をしなければならなかった人を指します。
特定受給資格者が失業手当を受給する際は、次のような優遇措置があります。
- 基本手当の受給要件緩和
- 所定給付日数の優遇
- 給付制限の撤廃
参照:『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断』厚生労働省
離職票における特定受給資格者の範囲と判断基準は?
特定受給資格者に該当する範囲や判断基準は「会社の責任で退職」と判断されるかどうかです。
具体的には、次のようなケースがあります。
- 倒産などにより離職した者
- 解雇などにより離職した者
より詳細な条件や判断基準を確認したい場合は、厚生労働省の『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準』を確認してください。
参照:『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断』厚生労働省
離職票における特定受給資格者に該当する具体例は?
離職票における特定受給資格者に該当する具体的な事例をご紹介しましょう。
勤務先の倒産
勤務先の倒産によって解雇された場合など、倒産による雇用機会を喪失した場合が対象です。
破産や民事再生、会社更生などの倒産手続きの申し立て、または手形取引が停止されたことにより離職した場合などが適用条件です。離職票を提出する際に、業務停止命令の事実がわかる資料の提出が求められます。
事業所内の大量雇用変動
大規模な人員削減や事業所の閉鎖・再編成、大規模な業務の移転などによって、事業所内の大量雇用移動が発生したことを理由に退職した場合も該当します。
具体的には、事業所内で1か月あたり30人以上の離職を予定すると届け出された場合や、全従業員の3分の1を超える離職した場合が対象です。さらに、事業所による再就職援助計画が申請された場合も該当します。
事業所の廃止
事業所の閉鎖や一部事業所の廃止、事業の撤退や転換など、所属していた企業や事業者の閉鎖や事業活動の再開が見込まれないことを理由に離職した場合も当てはまります。離職票を提出する際に、解散の議決が行われた議事録(写)の用意が必要です。
事業所の移転
事業所の移転によって、物理的に通勤が困難となり離職した場合や労働条件が大幅に変化した場合、そして移転先による雇用機会の減少などによって離職した場合に該当します。
離職票を提出する際に、事業所移転の通知や事業所の移転先がわかる資料、離職者の通勤経路にかかる時刻表などの提出が必要です。
勤務先からの解雇
所属する企業や事業所などの勤務先から解雇された場合も、特定受給資格者の対象です。ただし、自分の責任によって生じた理由で解雇された場合は対象外なので注意しましょう。
労働条件の相違
労働契約の締結時に交わされた労働条件と、実情が著しく相違していることを理由に離職した場合も、特定受給資格者の対象です。給与や労働時間、休日日数、勤務地など諸々の採用条件が異なることを理由に、就職後1年以内に離職した場合に該当します。
賃金の未払い
給与支払いの著しい遅延や、残業代や休日労働手当、賞与の未払いなどによって退職した場合も特定受給資格者に当てはまります。この場合、期日までに退職手当を除いた賃金の3分の1を超える額が支払われなかったことを理由に離職した場合が対象です。
離職票を提出する際に、労働契約書や賃金規定、賃金台帳、就業規則、給与明細書、口座振込日がわかる預金通帳などの提出が求められます。
賃金の低下
給与の減少や賃金体系の変更、賃金水準を下回る雇用など、賃金が下がったことを理由に退職した場合も該当します。
ただし、退職希望者が賃金が低下する事実を予見できなかった場合に限定されるため、注意が必要です。離職票を提出する際に、労働契約書や就業規則、賃金規定、賃金低下に関する通知書などもあわせて準備する必要があります。
長時間の時間外労働
規定を超える残業を強いられた場合や過重労働による健康被害が生じた場合など、長時間の時間外労働を理由に離職した場合も該当します。
ただし、離職直前の6か月間の時間外労働が、次のいずれかに当てはまらなければなりません。
- いずれか連続する3か月で45時間を超える時間外労働があった
- いずれか1か月で100時間を超える時間外労働があった
- いずれか連続する2か月以上の期間に、1か月平均で80時間を超える時間外労働があった
妊娠や出産、介護中の強制労働
妊娠中や出産後に安全や健康への配慮がない過酷な労働条件にさらされ、それが胎児や乳児に悪影響を及ぼすと判断された場合は、特定受給資格者に該当する可能性があります。
また、労働者が家族や親戚などの介護を行う必要がある場合に強制的に働かされたことによって身体的・精神的に大きな負担が生じた場合も、特定受給資格者の条件に当てはまると考えましょう。
妊娠や出産に関する制度が利用できなかったり、利用する際に不利益な扱いを受けたりしたことによって離職した場合も適用されます。
職種転換時の無配慮
従業員の職種転換時などにおいて、従業員が職業生活を継続することに対する企業や事業所の配慮が欠けていたために離職した場合が該当します。
たとえば、職種転換後に適切な研修や教育の未実施や、十分なサポート体制の未整備、従業員の適性などを無視した職種転換の実施などが対象です。
労働契約の未更新:勤続3年以上
有期雇用契約の更新によって3年以上雇用された労働者が、新たに契約更新されなかったことを理由に離職した場合も対象です。
勤続3年以上の労働者が労働契約の更新を申し出たにもかかわらず、雇用主が契約の更新を拒否した場合、もしくは契約更新条件の不当な変更や短期雇用契約、派遣労働などの不安定な雇用形態を強いた場合などが当てはまります。
ただし、退職者が契約更新を希望していた場合に限られるため、注意が必要です。
労働契約の未更新:勤続3年未満
契約時に契約更新があると伝えられていたにもかかわらず、契約が更新されなかったことを理由に離職した場合も対象です。ただし、勤続3年以上の条件に該当する場合を除くので注意しましょう。
上司や同僚などからの嫌がらせ
特定受給資格者に該当する具体例として、上司や同僚からの嫌がらせがあります。
上司など上位の立場にある人物から威圧的な態度や侮辱的な発言などを受けるパワーハラスメントや、上司や同僚からの性的な言動や行動によるセクシャルハラスメント、上司や同僚からの執拗ないじめや嫌がらせ行為などの被害を理由に退職した場合が当てはまります。
また、事業主が職場において嫌がらせ行為が発生している状況を知りながら、必要な措置や対策をしなかったことにより離職した場合も対象です。
事業主からの退職勧奨
事業主から退職勧奨をされた場合も対象です。
希望退職制度はあくまでも自主的な退職であり、労働者が応じるかどうかは自己の意思に基づくものです。退職を希望しない場合に解雇された場合は、特定受給資格者に該当することがあります。ただし、早期退職優遇制度などに応募した場合は該当しないため注意しましょう。
使用者の都合による休業の継続
事業所の都合による休業状態が続いたことを理由に退職した場合も対象です。
たとえば、経営状況の悪化による休業や業務需要の変化、労働条件の変更による休業などが3か月以上継続したために離職した場合が該当します。
業務の法令違反
事業者が法令違反の製品やサービスの製造、販売を継続するなど、法令に違反していると判明してから3か月以内に離職した場合も対象です。
特定受給資格者と特定理由離職者の違いについて
特定受給資格者と特定理由離職者との大きな違いは、離職理由です。
特定理由離職者 | 特定受給資格者 | |
---|---|---|
退職理由 | ・雇い止め ・正当な理由のある自己都合 など | ・会社の倒産解雇 など |
特定理由離職者の離職理由は、契約の未更新や正当な理由による自己都合退職などが挙げられます。一方で、特定受給資格者の主な離職理由は、倒産や解雇などです。
特定受給資格者及び特定理由離職者の失業手当はどうなる?
特定受給資格者と特定理由離職者が、失業保険を受け取る際の受給資格や所定給付日数、給付制限期間について解説します。
受給資格
通常は、離職日以前の2年間に被保険者期間が12か月以上ない場合は失業手当を受給できません。
しかし、特定受給資格者や特定理由離職者については、離職の日以前1年間に6か月以上の被保険者期間があれば失業保険を受給できます。このように、特定受給資格者や特定理由離職者である場合は失業手当の受給資格要件が緩和されているのです。
所定給付日数
失業保険を受け取れる日数の上限を所定給付日数といいます。この所定給付日数は、一般的な受給資格者と特定受給資格者、そして一部の特定理由離職者で異なります。
一般の受給資格者と特定理由離職者
算定基礎期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|
全年齢 | 90日 | 120日 | 150日 |
引用:『基本手当の所定給付日数』ハローワークインターネットサービス
特定受給資格者と一部の特定理由離職者
算定基礎期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上 35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上 45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上 60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上 65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
参考:『基本手当の所定給付日数』ハローワークインターネットサービス
一般的な離職者や特定理由離職者の場合、失業手当の所定給付日数は年齢に関係なく被保険者期間によって90〜150日と定められています。一方、特定受給資格者と一部の特定理由離職者の場合は、年齢によって90〜330日と幅広く設定されているのが特徴です。
給付制限期間
特定受給資格者や特定理由離職者は、失業手当の給付制限期間がありません。そのため、待機期間7日間の翌日から失業手当の給付が開始されます。
一般的な離職の場合は、離職票をハローワークに提出してから7日間の待機期間を過ぎたあとに、2か月、ないしは3か月間の給付制限期間が設けられるのです。このように、特定受給資格者や特定理由離職者は、失業手当の給付期間に関しても優遇措置が取られています。
参考:『基本手当の所定給付日数』ハローワークインターネットサービス
虚偽によって不正受給したらどうなる?
離職票に虚偽の内容を記載することは不正行為です。
不正行為によって失業手当を受給した場合や手当を不正に受け取ろうとした場合には、今後の失業手当の支給が停止されます。さらに、不正受給した金額の返還はもちろんのこと、場合によっては詐欺罪などで処罰される可能性もあります。
離職票の記載が事実と異なる内容だった場合も、記載した事業主の不正行為とみなされてしまうため注意が必要です。
参考:『不正受給の典型例』ハローワークインターネットサービス
まとめ
特定理由離職者と特定受給資格者の大きな違いは、離職理由です。
特定理由離職者の離職理由は、契約の更新がされないことや正当な理由がある自己都合などである一方、特定受給資格者の主な離職理由は「会社の倒産」や「解雇」などが当てはまります。両者の特徴や違いを理解したうえで、離職票の作成を行いましょう。
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