深夜残業の割増率とは? 深夜手当の計算方法や具体例、注意点を解説
法定労働時間を超える残業は時間外労働とみなされ、割増賃金が適用されます。その中でも22時から翌5時までの残業は「深夜残業」とみなされ、時間外労働に加えて深夜労働の割増賃金を支払う必要があります。
深夜残業の割増率について、規則の複雑さから、理解しきれていない人もいるでしょう。
本記事では、企業で給与計算を担当している人に向けて、深夜残業の割増賃金の計算方法や注意したいポイントなどを解説しています。深夜残業や割増賃金の適切な管理方法についても紹介しているので、参考にしてください。
深夜残業の賃金の割増率とは
深夜残業とは、労働基準法第37条に定められ、夜10時から翌朝午前5時までの時間帯に行われる時間外労働です。
深夜残業には時間外労働の割増率と、深夜労働の割増率両方が適用され、合計50%以上の割増賃金を支払う必要があります。
時間外労働の種類 | |
---|---|
時間外労働 | 法定労働時間を超える労働 |
休日労働 | 法定休日における労働 |
深夜労働 | 22時から翌5時までの労働 |
同法に定められた割増率の適用ルールについて解説します。
割増賃金とは
時間外労働やその他法定労働時間を超える労働には、割増賃金を支払うことが定められています。
割増賃金とは、通常の給与に上乗せして支払う賃金です。たとえば、深夜労働には25%以上の割増賃金を適用する必要があります。
通常の時給が2,000円だとすると、22時から翌5時までに働いた分に対しては1時間あたり「2,000円×1.25=2,500円」を支払う計算です。
同様に、時間外労働には25%以上、休日労働には35%以上の割増賃金が適用されます。
時間外労働とは
時間外労働とは、法定労働時間である1日8時間・週40時間を超える労働のことです。また、労働基準法では従業員に対して「1週間に1日または4週間を通じて4日の休日」を与えなければならないと定められており、法定休日の労働を休日労働といいます。
2023年4月からは、大企業だけでなく中小企業に対しても、月60時間超の時間外労働における50%以上の割増率の適用が始まりました。現在では企業規模を問わず、50%以上の割増率で計算した割増賃金を支払う必要があります。
参考:『2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます』厚生労働省
複数の割増率が適用される働き方
割増率の計算で特に注意したいのが、割増賃金の重複です。
たとえば1日の所定労働時間が10時から19時(うち休憩1時間)の場合、19時から23時まで残業したとすると、22時から23時までの1時間は「時間外労働かつ深夜労働」となり、深夜残業と呼ばれます。
深夜残業の割増率は50%以上です。
「休日労働かつ深夜労働」「月60時間を超える時間外労働かつ深夜労働」という働き方も、割増率は重複します。主な組み合わせにおける割増率は以下の通りです。
複数の時間外労働の組み合わせ | 割増率 |
---|---|
通常の深夜労働 | 25%以上 |
時間外労働+深夜労働 | 50%以上 |
月60時間を超える時間外労働+深夜労働 | 75%以上 |
休日労働+深夜労働 | 60%以上 |
休日労働+時間外労働+深夜労働 | 60%以上 |
所定労働時間が深夜 | 25%以上 |
休日労働には残業という概念がないため、1日8時間を超えて働いても時間外労働にはなりません。しかし、深夜労働の割増率は適用されるので、35%+25%=60%以上の割増賃金を支払う必要があります。
また、夜勤で働く人のように、そもそも所定労働時間が深夜帯の場合は、深夜労働分の割増率のみを適用します。
深夜残業の割増賃金の計算方法
深夜残業の割増賃金を計算する手順は、以下の通りです。
- 算定基礎賃金を出す
- 月平均所定労働時間を出す
- 1時間あたりの賃金(時給)を出す
- 時給に深夜労働時間数と割増率をかける
それぞれのステップについて、詳しく解説します。
1.算定基礎賃金を出す
割増賃金は、通常支給される賃金に割増率を乗じることで計算します。そのため、まずは計算のもととなる算定基礎賃金を算出しましょう。
算定基礎賃金には基本給だけでなく各種手当も含まれます。従業員に支給する手当のうち、以下は割増賃金の基礎となる賃金に含まれます。
- 資格手当
- 皆勤手当
- 役職手当
- 営業手当
しかし、一部除外する手当もあるため注意が必要です。具体的には、以下の手当は算定基礎賃金には含まれません。
- 通勤手当
- 住宅手当
- 家族手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 臨時で支払われた賃金
- 1か月を超えた期間ごとに支払われる賃金
ただし、ある手当が対象に含まれるかどうかは、手当の名前だけでは決まらないことに注意しましょう。実際には、手当の本質的な性質や実態が考慮されます。
2.月平均所定労働時間を出す
割増賃金を計算するには、1時間あたりの賃金が必要です。時給制であればそのままで問題ありませんが、月給制では算定基礎賃金を月平均所定労働時間で割ることで、賃金を時給換算します。
月平均所定労働時間は、以下の式で計算されます。
(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12か月 |
3.1時間あたりの賃金(時給)を出す
先ほど計算した月平均所定労働時間を用いて、以下のように1時間あたりの賃金(時給)を算出します。
算定基礎賃金÷月平均所定労働時間 |
4.時給に深夜労働時間数と割増率をかける
最後に、1時間あたりの賃金(時給)に深夜労働時間と割増率を掛け算します。
深夜残業の割増率は通常50%ですが、あくまでも法律上の下限です。実際の割増率は企業によって異なります。
深夜残業の割増賃金の計算例
深夜残業の割増率の適用について、以下の例をもとに、さまざまなパターンを考えてみましょう。
Aさんの基本情報 | |
---|---|
基本給 | 32万円 |
通勤手当 | 1万円 |
住宅手当 | 2万円 |
業務手当 | 6,000円 |
年間休日数 | 120日 |
所定労働時間 | 8時間 15時から24時まで(19時から20時までは休憩時間) |
時間外労働時間 | 20時間(深夜労働:5時間) |
Aさんの算定基礎賃金は、基本給に業務手当を含めた32万6,000円となります。
また、年間休日数が120日、所定労働時間が8時間なので、月平均所定労働時間は「(365日-120日)×8時間÷12か月≒163時間」です。
時給に換算すると「32万6,000円÷163時間=2,000円」です。
時間外労働時間の中で、深夜残業は5時間です。時間外労働と深夜労働の割増率をそれぞれ25%、計50%とすると、深夜残業手当は以下の通り計算します。
2,000円×1.5×5時間=15,000円 |
1.所定労働日に深夜残業した場合の割増率と支払われる賃金
Aさんの所定労働時間は15時から24時までなので、定時後に2時間残業して26時まで働いたとすると、時間帯ごとの労働は、以下の通り区分できます。
労働時間 | 労働の種類 | 賃金 |
---|---|---|
15時から19時まで | 所定労働 | 2,000円×4時間=8,000円 |
19時から20時まで | 休憩時間 | ‐ |
20時から22時まで | 所定労働 | 2,000円×2時間=4.000円 |
22時から24時まで | 深夜労働 | 2,000円×1.25×2時間=5,000円 |
24時から26時まで | 深夜労働+時間外労働 | 2,000円×1.5×2時間=6,000円 |
合計 | 23,000円 |
所定労働日に深夜残業をした場合、深夜労働だけの割増率と深夜労働+時間外労働の割増率が、それぞれの時間帯で適用されます。
割増賃金は合計で11,000円、所定内の労働と合算すると合計賃金は23,000円となります。
2.法定休日に深夜残業した場合の割増率と支払われる賃金
次にAさんが法定休日に深夜労働した場合について考えてみましょう。
労働時間 | 労働の種類 | 賃金 |
11時から15時まで | 休日労働 | 2,000円×1.35×4時間=10,800円 |
15時から16時まで | 休憩時間 | ‐ |
16時から22時まで | 休日労働 | 2,000円×1.35×6時間=16,200円 |
22時から24時まで | 休日労働+深夜労働 | 2,000円×1.6×2時間=6,400円 |
合計 | 33,400円 |
法定休日に深夜残業をした場合、休日労働に対する割増率と深夜労働+休日労働の割増率が、それぞれの時間帯で適用されます。
法定休日には残業という概念がないため、深夜帯の労働についてのみ割増賃金を重複させます。
割増賃金は合計で22,600円、所定内の労働と合算すると合計賃金は33,400円となります。
深夜残業の割増率に関する注意点
深夜残業の割増賃金を計算する際は、以下の2つのポイントに注意しましょう。
- 管理監督者にも深夜労働の割増賃金は支払われる
- 裁量労働制や固定残業代制でも深夜残業の割増賃金は発生する
管理監督者にも深夜労働の割増賃金は支払われる
管理監督者には労働基準法における労働時間や休憩、休日の規則は適用されませんが、深夜労働については割増賃金が適用されます。
管理監督者とは、経営者と一体的な立場にあり、組織内で相応の地位と権限を与えられている人です。
たとえば、所定労働時間が9時から18時の場合、管理監督者が18時以降に働いても時間外手当は支給されません。しかし、その中で22時から翌5時までの間に働いた分については、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
管理監督者は部長や課長といった肩書きではなく、あくまで実態で判断される点に注意しましょう。
裁量労働制や固定残業代制でも深夜残業の割増賃金は発生する
裁量労働制では、みなしの労働時間が8時間を超える分については割増賃金を支払います。
裁量労働制とは、実際の労働時間に関係なく、あらかじめ規定した労働時間働いたものとみなして賃金を支給する制度です。また、深夜労働についても割増賃金の支払いが必要です。
一方、固定残業代制とは、固定給の中にあらかじめ残業代が含まれる制度です。固定残業代制では、あらかじめ定めた残業時間を超えた分や、深夜労働については割増賃金を支給します。
どちらも「残業代を支払う必要がない」と誤解されやすいですが、一定の規則に基づいて時間外労働や深夜労働の割増賃金が発生するため注意しましょう。
会社が従業員の深夜残業や割増賃金を適切に管理する手法
従業員の労働時間を管理する方法は、主に以下の4種類です。
- 手書きの出勤簿
- エクセル
- タイムカード
- 勤怠管理システム
勤怠管理や給与計算は手計算やエクセルなどでも行えますが、作業量が膨大になり、担当者の負担が大きくなってしまいます。また、手作業で管理・計算をするため、ミスが起こりやすいのもデメリットです。
一方、勤怠管理システムは、深夜残業を含む労働時間の管理を半自動化し、業務負担を軽減できます。給与計算システムと連携すれば、複雑な深夜残業の割増賃金も自動で計算が可能です。
製品によっては、残業時間が法律の上限を超過しそうになるとアラートで通知してくれる機能もあり、長時間労働の是正にもつながるでしょう。
深夜残業には50%以上の割増率を適用(まとめ)
深夜残業には、深夜労働と時間外労働の割増率が両方適用されます。法律上は、25%+25%であわせて50%以上の割増賃金の適用が必要です。
深夜残業の割増賃金を正確に計算するためには「どこからが深夜労働や時間外労働になるのか」を理解し、個々の従業員の労働時間を厳正に管理しなければなりません。
労働時間の管理や給与計算を効率化するなら、勤怠管理システムの活用をおすすめします。
自社に適した勤怠管理システムを導入し、深夜残業時間や割増賃金を適切に管理しましょう。
深夜残業の管理にも|One人事[勤怠]
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