長時間労働の対策事例10選|是正に向けた取り組み・成功アイデアを紹介
長時間労働の是正は、働き方改革における重要な課題の一つです。企業が従業員の健康に配慮しつつ、生産性を向上させるためには、労働時間の適切な管理が必要となるでしょう。
本記事では、長時間労働の対策に成功した企業の事例を10選にまとめ、取り組みのアイデアを紹介します。 経営者層やマネジメント層は、働き方改革の実現に向けたヒントにしてください。
長時間労働の対策【成功事例10選】
長時間労働の問題は、働き方改革を進めるうえで重要な課題の一つです。 働く労働者の心身の健康を維持し、企業が安全配慮義務を果たすために取り組まなければなりません。
実際に長時間労働の改善に取り組み、成功した事例を知ることは自社の施策を検討するうえで役立つでしょう。
長時間労働の見直し整備に向けた業種ごとの具体例を、厚生労働省が公表する事例集や働き方改革特設サイトをもとに紹介します。主な取り組みは、「労働時間に関連する制度・体制の構築」「業務の改善」「従業員への教育」に分けられます。
参照:『時間外労働削減の好事例集』厚生労働省受託事業 |中小企業における長時間労働見直し支援事業検討委員会
参照:『働き方改革特設サイト|中小企業の取り組み事例』厚生労働省
1.運送業の事例
長時間労働の是正に向けて、運送業のB社では、従業員が週に一度自分でノー残業デーを設定する制度を導入しました。「帰りにくい」という雰囲気を取り払うとともに、共有ファイルを使って重複を避け、業務に支障が出ない仕組みも整えています。
背景には、長時間残業が常態化していたという問題がありました。労働削減時間のために、進捗レポートを月1回提出し、各自に時間管理を意識づけるようにもしています。
結果として、業務効率が向上し、1か月の時間外労働は20時間程度に抑えられています。
2.港湾運送業の事例
港湾運送業のA社では、長時間労働を削減するために、残業予定者の業務内容と退社予定時間を確認し、急ぎでない業務は翌日に回したり、ほかの従業員に振り分けたりする調整を実施しました。同時に多能工化を計画的に進め、特定の人に業務が集中しないように配慮しています。
残業実績は定期的に集計し、残業が多い部門には理由を報告させ、業務の適正化も進めています。また顧客との協力により、書類の様式を統一して業務効率を向上させ、最終的に双方にメリットのある関係性を築き、時間外労働の削減と顧客の要望に応えることを同時に達成しました。
3.食料品製造業の事例
食料品製造業C社では長時間労働の是正に向け、残業の際に「時間外労働申請書」を提出し、上司が残業の必要性を判断する制度を導入しました。不要な残業は翌日に回され、職場環境改善のため、工場長の指示で「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」活動も推進されています。
C社の取り組みは、生産量の増減による繁閑や人材不足を背景に導入されました。結果として、無駄な残業が削減され、業務効率が向上し、30時間以上の時間外労働が半分以下になる効果を上げています。
4.宿泊業(ホテル)の事例
D社では、長時間労働の是正に向けて業務ローテーションと残業の事前申請制度を導入しました。業務ローテーションにより、従業員がさまざまな業務を担当し、特定の従業員に業務が集中することを防いでいます。また、残業の事前申請制度により、上司が残業の必要性を判断し、不要な残業を抑制しています。
取り組みは、業務の偏りによる長時間労働が常態化していた問題を背景に実施されました。結果として、業務の平準化が進み、残業の抑制やチームワークの向上、業務効率の改善が実現されました。
5.飲食業(ファミリーレストラン)の事例
ファミリーレストランを展開するE社は、パート・アルバイトの能力向上を通じて業務効率を高め、長時間労働の削減に取り組んでいます。具体的には、業務ごとの習熟度をチェックリストで管理し、習熟度に応じた時給アップの仕組みを導入しました。
また、従業員からの業務改善提案を積極的に採用しています。店長固有の業務以外は、パート・アルバイトが多く担当するようになり、正社員の負担が軽減されました。
結果として、店長以外の正社員の残業は、ほとんど発生していません。さらに、改善提案の採用がパート・アルバイトのモチベーション向上にもつながっています。
6.印刷業の事例
印刷業F社は、労使協議を通じて長時間労働の削減に取り組みました。毎月の協議で課題を共有し、ノー残業デーの導入や振替制度を設け、時間外労働の是正をはかっています。
またISO9001認証を機に、業務力量表と教育訓練計画を活用し、従業員の能力を可視化する取り組みに注力しています。計画的な教育により、業務効率の向上と全体のスキルアップを目指しています。
結果として、時間外労働の削減だけでなく、従業員のモチベーション向上やワークライフバランスの改善が実現しました。
7.建設業の事例
駿河重機建設株式会社は、長時間労働削減の一環として、社長就任と同時に就業規則の見直しを行い、ICT建機の導入や男性社員の育児休業取得、時間単位の有給休暇の取得促進にも取り組みました。
多岐にわたる環境整備で3Kのイメージの払拭をはかるとともに、育児と仕事の両立を可能にし、従業員の働きやすさが向上しています。
施策を通じ、ワークライフバランスの向上とテレワークなど多様な働き方の実現が進み、労働時間の削減と業務効率の向上が達成されています。
8.医療・福祉の事例
社会福祉法人翼福祉会草薙ふたばこども園では、長時間労働の是正のために複数担任制を導入し、職員の業務負担を分散しました。背景には、保育業界特有の業務負荷が集中する状況があり、職員の定着率向上が求められていました。
また、不妊治療休暇や短時間勤務制度の導入で、出産・育児を支援し、結婚や出産後も働き続けやすい環境を整えています。
結果として、職員の働きやすさが向上し、定着率が上がるとともに、人材の確保にもつながっています。
9.小売業の事例
広島でスーパーを経営する株式会社フレスタでは、強制的に長時間労働をさせないために、毎日18時にパソコンが自動でシャットダウンする取り組みを数年前から続けています。以前は生活残業を行う従業員もいたため、残業削減分を賞与に上乗せする制度も導入しました。
同社が働き方改革に着手した背景には、食品スーパーの需要減退など事業環境の変化があります。また、定年間際の社員が相次いで体調をくずしたことも少なからず影響しています。
病児保育費の全額負担などの施策も功を奏し、結果として1年で残業は3割減少しました。
10.情報通信・ITの事例
東光コンピュータ・サービス株式会社では、長時間労働の是正に向けてノー残業デーやリモートワークの導入、会議時間の短縮などの取り組みを実施しました。背景には、労働時間の長さによる生産性低下や社員の健康問題があり、効率化が求められていました。
また、社員の健康をサポートするため、ラジオ体操や健康管理アプリを利用する健康経営を進めています。結果として、労働時間の削減と社員の健康維持に貢献し、残業は当たり前というIT業界のイメージの撤廃にも努めています。
長時間労働の是正対策に必要な3つの取り組み・アイデア
長時間労働の克服には、適切な取り組みが欠かせません。続いて、長時間労働を是正するために有効な取り組みやアイデアを3つの観点から紹介します。取り組みごとに、さらに細分化して具体的な方法を取り上げているので、一人ひとりの負担を軽減し、生産性向上を実現するために確認してみましょう。
- 業務効率化による時間の短縮
- 長時間労働をさせない仕組みの導入
- 勤怠管理・人材管理の強化
1.業務効率化による時間の短縮
まず第一に取り組みたいのは、業務効率を上げて長時間労働を切り上げる方法です。具体的には、以下の3つの方法が考えられます。
- 業務プロセスの見直し
- アウトソーシング・業務委託
- 効率化ツール・システムの導入
業務プロセスの見直し
現在の業務プロセスを見直して無駄な部分をカットすると、短い時間内で業務を完了できます。現在の業務を可視化し、リストアップすることから始めましょう。
アウトソーシング・業務委託
外注に出せる業務にはアウトソーシングや業務委託という選択肢を選び、従業員の業務自体を減らすことも大切です。費用はかかりますが、空いた労働時間で従業員は生産性の高いコア業務に集中できるとともに、精神的・肉体的負担を抑えられるでしょう。
効率化ツール・システムの導入
昨今のDX推進の波を受けて、業務を効率化させるツールやシステムを導入する企業は多くあるでしょう。各ITツールがカバーする業務領域は、サービスにより多岐にわたります。まず何から効率化させたいのか、要件を洗い出し、特徴を比較検討したうえで、自社の運用に適したものを選定することが大切です。
複数のサービスを契約すると、ツールごとの連携工数が発生するため、可能な限り業務を包括的にカバーできる統合型システムの導入をおすすめします。
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2.長時間労働をさせない仕組みの導入
次に取り組みたいのは、長時間労働をさせないルールを整備する方法です。具体的には、事例10選でも取り上げた、以下の3つの方法が考えられます。
- ノー残業デー・ノー残業ウィーク
- 時間外労働の事前申請制
- フレックスタイム制の導入
ノー残業デー・ノー残業ウィーク
残業を原則として禁止する日や週(ノー残業デー・ノー残業ウィーク)を制定する施策です。強制的に仕事を切り上げる仕組みが形成されるとともに、日本の雇用環境にありがちな「早く帰る罪悪感」や「周囲の目を気にする姿勢」から解放できるでしょう。
時間外労働の事前申請制
残業をする際は前もって申請し、上長の承認を得る制度にすると、「時間外労働はできる限り避けるべきもの」という認識を社内に浸透させることが可能です。また、会社側が従業員の残業時間を把握しやすくなるというメリットもあります。
フレックスタイム制の導入
フレックスタイム制の導入により、出勤時間や退勤時間を従業員が自由に決められます。柔軟な働き方を促進できるため、仕事の繁閑に合わせて労働時間を調整でき、結果的に長時間労働への対策につながります。
その他
長時間労働をさせない仕組みには、以上のような対策のほかにも、さまざまな取り組み事例があります。自社の現状を考慮したうえで、複数の方法を並行して実施するという方法も検討してみましょう。
- 業務の定期ローテーション
- 従業員スキルの可視化
- 短時間勤務制度
- 自動的にパソコンをシャットダウンさせる仕組み
- 集中タイムの導入
- 有給取得の促進
- 繁忙期に合わせた営業時間・休業日の設定
- 適切な研修
3.勤怠管理・人材管理の見直し
長時間労働を削減する対策には、労働時間の管理を含む勤怠管理を強化し、人材管理を見直すという姿勢も必要です。具体的に取り組みたい対策は、以下の3つです。
- 適切に労働時間を管理する
- 人材配置を最適化する
- 生産性が高い従業員を評価する人事制度を導入する
適切に労働時間を管理する
企業には従業員に対して、客観的で正しい労働時間の把握が求められています。時間外労働の上限が超過しそうな従業員にアラートを出したり、打刻ミスや不正を防止したりする対策が必要です。
正しい労働時間の管理には、エクセルなどアナログな作業では限界があるため、勤怠管理システムといった管理を自動化する手段も考慮に入れましょう。
人材配置を最適化する
特に残業が多い部署では、業務が一部の人に集中し、人手不足が原因となっているケースが多く見られます。
長時間労働の対策として、業務量を再分配し、限られた人数で効率よく働ける人材配置にすることが重要です。
まずは従業員のスキルや勤務実態を把握して可視化し、データに基づいてチームメンバーの役割や配置を見直すことで、各自が得意分野を活かせるようにします。適材適所の人材配置を実施し、生産性を最大化しましょう。
生産性が高い従業員を評価する人事制度を導入する
日本では、いまだに長時間労働を行う従業員が評価される会社も少なくありません。
人事制度を見直し、短期間で困難な業務を遂行する従業員が、高く評価されるように見直す必要があります。生産性の高い従業員が適切に評価されるようになれば、無駄な残業も減少するでしょう。
長時間労働の是正対策に取り組むメリット
企業が長時間労働を改善するために対策に取り組む主なメリットを4つ紹介します。具体的な対策を実施する前に、メリットを再確認しておくと、従業員に協力を得る際にも役立つでしょう。
- 従業員の心身の健康を守る
- 従業員のモチベーションが向上する
- 人件費を抑制できる
- 企業イメージが向上する
従業員の心身の健康を守る
長時間労働は従業員の心身の健康を害し、最悪の場合、過労死につながるリスクもあります。過労死ラインが定められていることからも、長時間労働がいかに健康に悪影響をおよぼすか、多くの人が理解しているでしょう。
長時間労働の解消は、労働災害(労災)の発生を未然に防ぎ、従業員の健康を守ることができます。また、ワークライフバランスの向上にもつながり、従業員の生活全体の質を高める効果も期待できます。
従業員のモチベーションが向上する
長時間労働が減少し、従業員がストレスから解放されると、業務に対するモチベーションが高まります。やる気が向上すると、新しいアイデアが生まれやすくなり、創造的な仕事が促進されるでしょう。
一人ひとりが業務に意欲的に取り組めるようになると、全体の定着率が上がり、離職率の低下にもつながります。
人件費を抑制できる
残業時間が減ると、企業の人件費を抑えられるメリットもあります。定時で業務を終わらせることができれば、コストの削減につながり、経営効率が向上します。生産性が高い企業経営を実現するためにも、残業削減は有用な手段の一つです。
企業イメージが向上する
長時間労働を改善する対策は、社会的に高く評価されやすく、企業のイメージ向上につながります。採用活動でも、優秀な人材が集まりやすくなるため、競争力のある企業づくりに役立つでしょう。信頼される企業としてイメージを確立するためにも、長時間労働への対策は不可欠です。
長時間労働の是正対策がうまくいかないのはなぜ?
働き方改革により、すでに長時間労働の改善に向けた対策に取り組んでいる企業も多いでしょう。しかし、なかには思うような効果が得られていない場合もあります。
長時間労働の是正対策がうまくいかないのは、いくつかの要因に起因しています。考えられる主な理由を、労働環境や雇用問題に沿って取り上げ解説します。
人手不足
従業員の数が不足しており、業務に必要なリソースが十分に確保できていないことが、長時間労働の大きな要因となっています。問題を解決するためには、新規採用や給与体系の見直しなどを検討する必要があります。
業務量の多さ
現在在籍している従業員のみでは扱いきれない業務量の仕事を抱えているケースもあります。実現が難しいノルマや目標を掲げている場合は、その内容を見直してみてください。
現在の従業員数では処理しきれない業務量を抱えている場合も、長時間労働の原因です。実現が難しいノルマや目標を掲げている職場は、目標を現実的なものに修正し、業務の負担を軽減する必要があります。
属人化
特定の業務が特定の従業員に依存してしまう「属人化」も、長時間労働に結びつきます。一部の人にしか処理できない業務があるため、ほかの人がフォローできず、当事者に業務が集中してしまうためです。
問題を解決するためには、業務を標準化し、マニュアルを作成して複数人で対応できるようにすることが重要です。まずは属人化している業務をリスト化し、同僚が引き継げる仕組みを整えましょう。
アナログ業務
手作業などアナログな方法で業務を管理していると、ケアレスミスや修正が増加し、長時間労働を招きます。DX化を推進して一部作業の自動化することで、無駄を減らし、全体的な作業効率を高めることが可能です。
企業風土
「残業が当たり前」という文化が根強く残っている企業は、風土改革から始めましょう。経営陣や管理職が率先して「残業はなるべく避ける」というメッセージを明確に発信し、組織全体で意識改革を進める必要があります。
労働時間を正しく把握できていない
労働時間の管理が甘く、気づかないうちに長時間労働が発生しているケースもあります。従業員自身の意識の低さや企業全体の管理が不十分であることが要因です。
特に、企業側が労働時間の管理を徹底していない場合、問題が見過ごされやすくなります。
問題を解決するためには、労務管理のマニュアルを整備するとともに、勤怠管理システムの導入を進めて、労働時間を正確に記録・管理できる仕組みを整えることが重要です。
企業と従業員双方が適切に労働時間を把握し、効率的な働き方を促進しましょう。
長時間労働の是正対策は適切な勤怠管理から(まとめ)
長時間労働に対処するには、多方面からのアプローチが必要です。本記事で紹介した成功企業の事例を参考に、取り組みを検討してみましょう。
なかでも「適切な勤怠管理」は特に重要です。従業員の労働時間を正確に把握することで、無意識に長時間労働が発生する状況を防ぎ、全社的に労働時間への意識が高まります。
万一、打刻ミスや不正など勤怠管理に課題を感じている企業は、自社に合った勤怠管理システムを導入することから始めてみてはいかがでしょうか。
勤怠管理の適正化に|One人事[勤怠]
One人事[勤怠]は、労働時間の適切な把握に活用できる勤怠管理システムです。
長時間労働が続く従業員にアラートを出したり、残業の事前申請ができたりすることで、長時間労働を発生させない仕組みづくりに役立ちます。
「労働時間や残業時間を正確に把握できていない」などの課題を抱える企業は、検討してみてはいかがでしょうか。
One人事[勤怠]の初期費用や気になる操作性については、当サイトより、お気軽にご相談ください。当サイトでは、勤怠管理の効率化に役立つ資料を無料でダウンロードしていただけます。勤怠管理をシンプルにしたい企業の担当者は、お気軽にお申し込みください。
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