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変形労働時間制(1か月単位など)の基本|具体的内容も詳しく解説

繁忙期と閑散期が明確に分かれる業種・業態の企業にとって、繁忙期の人員確保は必要不可欠でしょう。変形労働時間制を活用すれば、コストを抑えて繁忙期の人員を確保できます。本記事では、変形労働時間制の基礎知識や残業時間の考え方、変形労働時間制を採用するメリット・デメリットなどを解説します。ぜひ参考にしてください。

※本記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。

変形労働時間制(1か月単位など)の基本|具体的内容も詳しく解説
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    変形労働時間制について

    変形労働時間制の概要について解説します。

    変形労働時間制とは

    変形労働時間制とは、労働基準法における時間管理の一形態です。あらかじめ定められた期間(たとえば1か月単位)内で労働時間を変動させられます。変形労働時間制を活用すれば、企業は忙しさにあわせて従業員の労働時間を柔軟に調整できるでしょう。変形労働時間制は1週間単位・1か月単位・1年単位に分けられます。

    ほかの似た制度との違い

    変形労働時間制は、労働時間の柔軟性を提供する制度であるため、フレックスタイム制や裁量労働制と混同されがちです。フレックスタイム制は、一定のコアタイム(必須労働時間)を設けつつ、始業時刻や終業時刻を従業員が自由に設定できる制度です。

    また、裁量労働制では労働時間を一定とせず、従業員が自身の裁量で仕事を遂行し、その結果が評価されます。いずれも、従業員側が運用する制度です。一方、変形労働時間制は、主に使用者、すなわち企業側によって運用されます。それぞれ特徴と運用の主体が異なる点に注意しましょう。

    労働期間による変形労働時間制の種類

    変形労働時間制の種類は、労働期間によって1週間単位・1か月単位・1年単位に分けられます。それぞれの特徴を下記の表にまとめました。

    項目1か月単位の変形労働時間制1年単位の変形労働時間制1週間単位の非定型的変形労働時間制
    休日の付与日数と
    連続労働日数の制限
    週1日または4週4日の休日週1日※1週1日または4週4日の休日
    1日の労働時間の
    上限
    10時間10時間
    1週の労働時間の
    上限
    52時間※2
    1週平均の労働時間40時間
    (特例44時間)
    40時間40時間
    時間・時刻は会社が指示する
    あらかじめ就業規則などで時間・日を明記◯※3
    特定の事業・
    規模のみ

    (従業員数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店)

    ※1 対象期間における連続労働日数は6日(特定期間については12日)
    ※2 対象期間が3か月を超える場合は、回数などの制限あり
    ※3 1か月以上の期間ごとに区分を設け労働日、労働時間を特定する場合、休日、始・終業時刻に関する考え方、周知方法などの定めを行う

    出典:『労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制)』厚生労働省 徳島労働局

    以下、期間による変形労働時間制の違いをそれぞれ解説します。

    変形労働時間制1か月単位のケース

    1か月単位の変形労働時間制は、企業が1か月の間で平均労働時間を法定労働時間内に収めるよう調整する方法です。法定労働時間は、労働基準法によって「1日8時間、週40時間まで」と定められています。1か月単位で変形労働時間制を採用した場合の法定労働時間は、下記の通りです。

    月の日数法定労働時間
    28日160.0時間
    29日165.7時間
    30日171.4時間
    31日177.1時間

    1か月単位の変形労働時間制では、1日あたりの最長労働時間や休日の数に制限はありません。その代わりに、1か月全体の労働時間が規定された範囲内に収まるよう調整します。

    特に、業務の量や需要が大きく変動し、長時間労働が必要となる業種に適しているでしょう。たとえば、建設業や製造業、医療業などでは、この制度を活用すれば労働力の最適な配分をはかれます。

    変形労働時間制1週間単位のケース

    1週間単位の変形労働時間制を採用すれば、平日や週末、または曜日ごとの繁閑に応じて、1週間の間で労働時間を柔軟に調整できます。ただし、1週間の平均労働時間が法定労働時間(週40時間)を超えないように調整する必要があります。

    制度の対象となるのは、規模が30人未満の小売業や旅館、料理店、飲食店の事業者です。これらの業界では週末や特定の曜日に業務が集中し、労働時間の柔軟な調整が求められます。

    1週間単位の変形労働時間制は、需要の変動に対応しつつ従業員の過重労働を防ぐ、効果的な手段です。

    変形労働時間制1年単位のケース

    1年単位の変形労働時間制では、年間を通じて労働時間を調整できます。繁忙期には労働時間を増やし、閑散期には労働時間を減らすことで、労働力の需給を最適化し、経営効率を向上させられます。

    重要なポイントは、年間の平均労働時間が法定労働時間を超えないように調整することです。1年単位で変形労働時間制を採用した場合の法定労働時間は、下記の通りです。

    年の日数法定労働時間
    365日2085.7時間
    366日2091.4時間

    この制度は、適切な管理がなされないと使用者によって乱用されるリスクも抱えています。たとえば、一部の使用者が従業員の健康を無視し、繁忙期の長時間労働を強制してしまう恐れがあります。

    1年単位の変形労働時間制を運用する際には、従業員の健康と安全を確保するための制限や保護措置が必要です。

    変形労働時間制の制度と考え方

    変形労働時間制の制度と考え方について解説します。

    所定労働時間の繰り上げや繰り下げはできない

    変形労働時間制を運用する場合、所定労働時間の繰り上げや繰り下げはできません。所定労働時間とは、6時間や8時間など、労働契約に基づいて定められた1日の労働時間です。

    たとえば、所定労働時間が8時間だった日に10時間働いたとしましょう。この場合の残業時間は2時間です。次の日の労働時間を6時間にして相殺することはできません。

    残業時間は就業規則と照合

    変形労働時間制の導入には、労働の効率化や生産性向上などのメリットがある一方で、適切な労働管理と人件費のコントロールが求められます。なかでも残業時間の管理は特に重要であり、就業規則に基づいて残業時間と残業代を算出することが大切です。

    就業規則とは、企業が従業員の労働条件や勤務規定を明確に示した文書です。労働時間や休日、休暇、給与、退職などに関する従業員の権利と義務が詳細に記載されています。変形労働時間制を導入するにあたって、企業は就業規則を遵守しなければなりません。

    変形労働時間制による残業時間の算出方法については、のちほど詳しく解説します。

    所定労働時間が法定労働時間の総枠を超えたら残業になる

    変形労働時間制を採用した場合は、法定労働時間の総枠を超えた労働が残業とみなされ、その分の賃金を割増賃金として支払います。採用する変形労働時間制ごとの法定労働時間の総枠は、下記の通りです。

    1週間単位

    1週間40.0時間

    1か月単位

    1か月単位の場合は、月の日数によって法定労働時間の総枠が異なります。

    28日間160.0時間
    29日間165.7時間
    30日間171.4時間
    31日間177.1時間

    1年単位

    1年単位の場合は、通常の年と閏年で法定労働時間の総枠が異なります。

    365日間の年2085.7時間
    366日間の年2091.4時間

    変形労働時間制での残業時間などの計算方法

    変形労働時間制を採用した場合の残業時間の計算方法について解説します。

    1か月単位の変形労働時間制における残業時間

    1か月単位の変形労働時間制を採用した場合、残業時間の取り扱いは通常の労働時間制度と比べてやや複雑です。あらかじめ始業時刻と終業時刻を設定しておく必要があり、その範囲内で労働することが前提です。前日に労働時間を設定することは認められていません。

    残業時間の考え方は、下記の3つのパターンに分けられます。

    11日について、8時間を超えた労働時間を特定している日は、超えた分を残業とする
    21週間について、40時間を超えた労働時間を定めた週は、超えた分を残業とする
    (1でカウントした分は除外する)
    31か月について、月の日数ごとに定められた法定労働時間の超過分を残業とする
    (1,2でカウントした分は除外する)

    労働時間の詳細な管理が求められるため、管理コストの増加がある点も考慮に入れながら運用しましょう。

    1週間単位の変形労働時間制における残業時間

    1週間単位の変形労働時間制では、法定労働時間である週40時間を超えた時間が残業時間です。なお、1日の労働時間の上限が10時間である点にも注意しましょう。

    1年単位の変形労働時間制における残業時間

    1年単位の変形労働時間制は、「日の単位」「週の単位」「年の単位」の観点で残業時間を算出し、合計します。

    日の単位

    所定労働時間が8時間を超える日は超えた時間分、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間分が残業時間です。たとえば、1日の所定労働時間が9時間とされている場合、10時間労働すれば1時間分が残業時間です。

    週の単位

    所定労働時間が40時間を超える週は超えた時間分、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間分が残業時間です。たとえば、週の所定労働時間が45時間とされている場合、48時間労働すれば3時間分が残業時間です。

    年の単位

    1年のうち、2,085.7時間(閏年の場合は2091.4時間)を超えた労働した時間分が残業時間です。ただし、日の単位または週の単位で時間外労働となった時間は除きます。

    年に2,100時間労働した場合は、14.3時間分が残業時間です。1年単位の変形労働時間制には、原則1日10時間、週52時間までの労働時間制限が設けられています。また、対象期間が3か月を超える場合には、48時間を超える週数や週の初日の数に制限が存在します。

    変形労働時間制のメリット・デメリット

    変形時間労働制のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。

    変形労働時間制のメリット

    変形労働時間制を採用すると、企業・従業員双方にメリットがあります。

    企業にとってのメリットは、忙しさにあわせて労働時間を調整できる点です。業界によっては、繁忙期と閑散期がはっきりしています。変形労働時間制を採用すると、繁忙期に必要な人員を確保し、閑散期には労働時間を短縮できるため、人件費の削減につながります。

    従業員もメリハリをつけた働き方ができるため、ワークライフバランスが保たれ、結果的にモチベーションや生産性の向上が期待できるでしょう。

    変形労働時間制のデメリット

    変形労働時間制の採用には数々のメリットがある一方、デメリットもあります。

    変形労働時間制を採用するためには、一定の手間がかかります。まず、従業員の労働時間を管理し、記録を保存するためのシステムを導入しなければなりません。

    従業員の給与を計算し、正確に支払うためのシステムも必要です。準備と運用にあたって、事務作業の負担が大きくなる恐れもあります。

    また、変形労働時間制を適切に運用するためには、就業規則の整備も必須です。労働時間の範囲や平均労働時間の計算方法、超過労働時間の取り扱いなどを明文化し、従業員に理解してもらう必要があります。

    さらに、部署間で労働時間が大きく異なる場合、部署間のコミュニケーションが取りにくくなるかもしれません。企業の組織的な連携が滞り、全体の生産性に影響を及ぼすリスクもあるでしょう。

    変形労働時間制の問題点

    変形労働時間制を運用するにあたって、いくつかの問題点があります。導入前に、起こり得る問題点を把握しておきましょう。

    1つめの問題点は、所定労働時間の明確性が失われることです。変形労働時間制は、特定の期間において日々の労働時間が変動する仕組みです。そのため、従業員が自身の所定労働時間を正確に把握できなくなる恐れがあります。所定労働時間が6時間の日に8時間働かせるなど、使用者によって悪用される危険性もあるでしょう。

    2つめの問題点は、就業規則そのものが法定労働時間を超過する可能性があることです。導入にあたって定めた就業規則が法定労働時間をオーバーしていると、法令違反となり無効です。就業規則を整備する際には、内容を細かく精査してください。

    変形労働時間制を採用する際は十分に検討しましょう

    変形労働時間制の採用を検討する際には、単位ごとの違いや残業時間の取り扱い、注意点などについて十分に知識を深めておきましょう。企業・従業員双方にとってメリットがある場合に、変形労働時間制の採用をおすすめします。

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