ダブルワークの労働時間は週40時間以内|割増賃金は副業が支払う? 残業代の計算方法や注意点を解説

労働基準法では、労働時間の上限を「1日8時間・週40時間以内」と定めています。この制限はダブルワークをしている従業員にも適用されるため、勤務先が複数ある場合はそれぞれの労働時間を通算で考えなければなりません。また、通算での労働時間が制限を超えた場合に、残業代は本業と副業どちらが支払うべきか気になる人も多いでしょう。
本記事では、ダブルワークをしている従業員の労働時間に関する取り扱いや、注意点について解説します。計算例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
▼労働時間の管理方法について基本をおさらいするには以下の資料もご活用ください。


ダブルワークの労働時間は週40時間以内
ダブルワークをしているかどうかに関係なく、労働者の週の労働時間は基本的に40時間を超えられません。
従業員が複数の会社で働いている場合は、それぞれの労働時間を通算して「1日8時間・週40時間」を超えないよう管理する必要があります。
従業員の労働時間については、労働基準法第32条と第38条で次のとおり定められています。
(労働時間)第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。2.使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
(時間計算)第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
引用:『労働基準法』e-Gov法令検索
第32条に規定された労働時間の上限を「法定労働時間」といい、超えた労働は「時間外労働」として扱います。
たとえば以下の例では、本業と副業の労働時間がそれぞれ法定内に収まっていますが、通算すると、火曜日と木曜日は1日8時間を超える働き方です。
曜日 | 本業の労働時間 | 副業の労働時間 | 通算の労働時間 | 時間外労働時間 |
---|---|---|---|---|
月曜日 | 4時間 | 4時間 | 8時間 | ‐ |
火曜日 | 4時間 | 5時間 | 9時間 | 1時間 |
水曜日 | 5時間 | ‐ | 5時間 | ‐ |
木曜日 | 5時間 | 5時間 | 10時間 | 2時間 |
金曜日 | 4時間 | 4時間 | 8時間 | ‐ |
土曜日 | ‐ | 4時間 | 4時間 | 4時間 |
日曜日 | ‐ | ‐ | ‐ | ‐ |
金曜日の時点で週の労働時間は40時間に達しているので、土曜日の副業の4時間はすべて時間外労働です。
ダブルワークの従業員については、別の勤務先の労働時間も把握しておかないと、知らないうちに法定労働時間を超過してしまうリスクがあります。

たとえ本人の希望でダブルワークをしているとしても、法定労働時間を超過して働かせた場合は企業が労働基準法違反となります。6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられるおそれがあるため注意しましょう。
ただし、例外もあるため以下で確認していきます。
例外1.労使間で36協定を締結している場合
36協定を締結していれば、時間外労働が可能になるため、ダブルワーク通算で週40時間以上の労働が認められます。
36協定とは、法定労働時間を超える労働や休日労働をさせる場合に、企業と従業員がお互いに納得したうえで締結された取り決めです。
ダブルワークに限った話ではありませんが、従業員に時間外労働や休日労働を指示するためには、36協定の締結が不可欠です。
ただし、36協定を結んでいても、原則として「月45時間・年360時間まで」 しか時間外労働は許されていません。
また、時間外労働に対しては、通常支給する賃金とは別に25%以上の割増賃金を支払う必要がある点も覚えておきましょう。
副業に関する36協定の規定は以下よりご確認ください。
例外2.労働基準法が適用されない業種や契約形態の場合
労働基準法の対象外となるダブルワーク従業員は、週40時間以内を考慮する必要はありません。
法定労働時間は同法により規定されており、法律の適用外であれば、取り決めを守る必要がないからです。
労働基準法の対象外となる働き方、契約形態は以下が該当します。
- フリーランス
- 個人事業主
- 共同経営者
- 監事
- 顧問
- 理事 など
また、次の業種に従事する人や立場にある人は、労働基準法が適用されるものの、労働時間や休憩・休日に関する取り決めは適用除外です。
- 農業
- 畜産業
- 養蚕業
- 水産業
- 管理監督者
- 機密事務取扱者
- 監視・断続的労働従事者 など
一般の従業員がダブルワークをしている場合、基本的に週40時間以内に抑える配慮が必要と覚えておきましょう。
副業関連の情報は以下より関連記事をご確認いただけます。
ダブルワークで週40時間を超えたら、本業と副業のどちらが残業代(割増賃金)を支払う?
ダブルワークによって労働時間が法定労働時間を超えた場合、原則として、あとから雇用契約を締結した企業が割増賃金を支払います。
たとえば、もともとA社と雇用契約を結んでいる人がB社でも働き始めた場合、法定労働時間を超えた部分の割増賃金はB社が支払います。
週の通算で法定労働時間を超過した場合の割増賃金支払い者 | ||
---|---|---|
2024年4月 | A社と契約(本業扱い) | A社だけで法定労働時間を超過していなければ支払い義務なし |
2024年12月 | B社と契約(副業扱い) | 支払い義務 |
基本的にはまず本業があり、あとから副業先と雇用契約を結ぶ場合が多いので、副業先がダブルワークにおける割増賃金を支払うケースが大半です。
ただし、自社が先に雇用契約を締結していても、割増賃金の支払い義務を負う場合もあります。自社の業務のみでは法定労働時間を超過しなくても、副業先の勤務時間を加えれば法定労働時間の限度となることを把握していたようなケースです。この場合、先に雇用契約を締結した企業が労働時間の延長を命じれば、必ず法定労働時間を超過することが明白だからです。
先に雇用契約を締結した側であっても、割増賃金を負担する例外もあると理解しておきましょう。

ダブルワークで週40時間を超えたときの残業代(割増賃金)の計算方法
実際にダブルワークで週40時間超えを想定し、割増手当を計算してみましょう。
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働については、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金の基本計算式は、次のとおりです。
1時間あたりの賃金×1.25×残業時間(時間外労働時間) |
以下のような例では、割増賃金を支払うのはあとから契約した副業先B社です。
A社(本業)→B社(副業)の順に雇用契約を締結 | |
---|---|
本業の労働時間 | 週30時間 |
本業の賃金 | 時給1,500円 |
副業の労働時間 | 週15時間 |
副業の賃金 | 時給1,300円 |
以上の例では、本業と副業の労働時間の合計は週45時間となり、週あたりの法定労働時間を5時間超過します。
よって、副業先B社が支払う賃金は次のとおりです。
1,300円×10時間+1,300円×1.25×5時間=2万1,125円 |
割増賃金の計算方法を一からおさらいするには以下の記事もご確認ください。
ダブルワークの労働時間が週40時間を超えるときの注意点
ダブルワークにより労働時間が法定労働時間を超える場合は、次の3つのポイントに注意しましょう。
- 時間外労働の上限は本業と副業で通算されない
- 従業員の健康面に配慮する
- 月45時間・年360時間を超えるときはとくに注意が必要
それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。
時間外労働の上限は本業と副業で通算されない
労働基準法第38条により、本業と副業の「労働時間」は通算されますが、「時間外労働の上限」はそれぞれの事業所ごとに考えます。36協定における規定は、それぞれの事業所ごとに適用されるためです。
たとえば、A社での時間外労働時間が23時間、B社での時間外労働時間が24時間とします。通算すると「月45時間」という上限を超えてしまいますが、個別に考えると上限規制に違反していないため問題ありません。
特別条項を設ける場合の上限は会社ごとに規制されるものと、通算して考えるものとに分けられます。詳しく知りたい方は次の段落にお進みください。
月45時間・年360時間を超えるときは注意が必要
時間外労働には上限規制が設けられています。36協定を締結している場合でも、「月45時間・年360時間」という時間外労働の上限を超過しないよう注意が必要です。
特別条項付きの36協定を結んでいれば「月45時間・年360時間」を超えられますが、その場合もいくつかの上限規制が設けられます。
法定労働時間と時間外労働の上限についてまとめると、次のとおりです。
労働時間の上限 | |
---|---|
法定労働時間 | 1日8時間/週40時間 |
36協定を締結した場合 | 月45時間/年360時間 |
特別条項付き36協定を締結した場合 | ・年720時間以内 ・2〜6か月の時間外労働および休日労働の平均が80時間以内 ・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満 ・時間外労働が月45時間を超えられるのは年6回まで |
特別条項の有無にかかわらず、時間外労働と休日労働の合計は「月100時間未満」「2〜6か月平均80時間以内」の範囲に収める必要があります。
加えて、特別条項付き36協定においては、各種上限規制に対する扱いが次のように異なります。
特別条項付き36協定における上限規制 | 本業と副業の通算 |
---|---|
・年720時間以内 ・時間外労働が月45時間を超えられるのは年6回まで | しない |
・2〜6か月の時間外労働および休日労働の平均が80時間以内 ・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満 | する |
時間外労働の割増賃金は通常25%以上ですが、特別条項をつける場合は月の時間外労働時間に応じて以下のとおり定められています。
時間外労働時間 | 割増賃金 |
---|---|
月45時間以内 | 25%以上 |
月45時間超、60時間以内 | 25%を超えるよう努める |
月60時間超 | 50%以上 |
参照:『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』厚生労働省
参照:『しっかりマスター労働基準法 割増賃金編』東京労働局
以上のように、ダブルワークをしている従業員へはさまざまな配慮が必要です。時間外労働の基本的ルールとあわせて確認しておきましょう。時間外労働に関する基本ルールは以下よりご確認いただけます。
従業員の健康面に配慮する
労働時間の上限が法律で定められているのは、労働者の健康や生活を守るためです。
長時間労働は負担が大きく、心身の健康に悪影響を及ぼしかねません。
とくに、ダブルワークは労働時間が長くなりやすいだけでなく、業務内容や人間関係が異なる複数の職場に属することで、心身に大きな負担がかかってしまいます。
ほかの職場でも働いている従業員がいる場合は、定期的に心身の健康をチェックするとともに、頑張りすぎていないか、困っていることはないか普段から気にかけるよう心がけましょう。
心身に負担がかかっている従業員に対して、適切なアドバイスができる体制を整えることも大切です。
従業員の健康や安全に関する配慮については、労働契約法第5条にも定められています。
(労働者の安全への配慮)第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用:『労働契約法』e-Gov法令検索
たとえ自社に割増賃金の支払い義務がなかったとしても、企業が果たすべき義務として、従業員の健康には十分配慮しましょう。
ダブルワークは週40時間ルールと残業代に注意
従業員がダブルワークをしている場合は、ほかの勤務先との労働時間を通算して法定労働時間(1日8時間・週40時間以内)に収めなければなりません。
ダブルワークにより法定労働時間の週40時間を超えるのであれば、超過が発生する勤務先の企業で36協定を締結が必要です。
通常は、あとから雇用契約を結んだ企業が副業先となり、時間外労働が発生しているとみなされます。つまり、残業代(割増賃金)の支払い義務も副業先で発生します。
ただし、ダブルワークで週40時間を超えることが確実視される状態で、労働時間を延長する場合は、先に雇用契約を締結した側の企業であっても割増賃金を支払わなければなりません。自社の労働時間の延長によって、法定労働時間を超過することが自明だからです。
ダブルワークの週40時間ルールの理解とあわせて、企業は従業員の健康管理についても配慮しましょう。長時間労働は心身に負担がかかるため、たとえ割増賃金を支払う必要がなくても、気遣いが必要な場合もあります。法的上限規制を遵守しつつ、日頃から従業員の様子を気にかけ、健康を損ねないようサポートすることが大切です。
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