月の途中で退職したら社会保険料はどうなる? 【月中(15日)・月末】退職日による給与計算の扱いを解説
退職日が月の途中か月末かで、社会保険料や給与計算の方法が変わることをご存じですか。
退職時の給与計算は複雑に思えるルールがあり、担当者は適切な対応が求められます。従業員からの問い合わせやトラブルを避けるためにも、正確な処理が必要です。
本記事では、月中(15日)退職と月末退職、それぞれのケースにおける社会保険料の扱いや給与計算のポイントをわかりやすく解説します。
月の途中で退職した従業員の社会保険料控除はどうなる?
従業員が月の途中で退職した場合、その月の社会保険料は控除されません。
たとえば10月16日に退職した場合、社会保険料を最後に控除するのは9月分となります。
退職日 | 社会保険料を最後に控除する月 |
10月16日 | 9月(10月分は控除されない) |
なぜ月の途中で退職すると、給与から社会保険料を控除しないのでしょうか。社会保険料徴収の基本的な仕組みを踏まえながら解説します。
当月分の社会保険料は翌月控除する
社会保険料は当月分の社会保険料を、翌月分の給与から差し引く仕組みです。たとえば9月分の給与からは8月の社会保険料を、10月分の給与からは9月の社会保険料を控除します。
そのため、社会保険料の控除が必要な期間は「社会保険の資格喪失日が属する月の前月」までと定められており、従業員が退職する月の社会保険料は給与から差し引く必要はありません。
社会保険料の控除のタイミングについてより詳しく知りたい方は以下の記事をご確認ください。
社会保険料は月単位で徴収する
社会保険料は日割り計算せず、月単位で徴収します。月の途中で入社した場合は、1日でも在籍していればその月の社会保険料が発生します。
一方で月の途中で退職する場合、当月の在籍日数分の保険料を納める必要はありません。あくまでも、その月が徴収対象月になるかが重要です。基本的に退職月に前月(最後の徴収対象月)の社会保険料を徴収して終わりとなります。
社会保険料の控除例を退職日別に解説【月の途中・月末】
従業員が退職するとき、社会保険料が最後に発生するのは、社会保険の資格喪失日が属する月の「前月」です。
注意したいのは、社会保険の資格喪失日は「退職日の翌日」であることです。
そのため退職のタイミングによっては、退職月の社会保険料が発生する場合があります。
以下では、具体的な退職日を例に挙げながら、社会保険料の控除の要否について、詳しく解説します。
参照:『月の途中で入社したときや、退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。』日本年金機構
例1.月の途中(7月15日)に退職
従業員が7月15日に退職した場合、社会保険の資格喪失日は翌日の7月16日です。
社会保険料は資格喪失日が属する月の前月、つまり6月分までを収めればよいことになります。
退職日 | 7月15日 |
資格喪失日 | 7月16日 |
社会保険料が発生する最終月 | 6月 |
例2.月末の1日前(7月30日)に退職
従業員が7月30日に退職した場合、社会保険の資格喪失日は翌日の7月31日です。
月の途中で退職した場合と同様、最後に保険料を納めるのは6月となります。
退職日 | 7月30日 |
資格喪失日 | 7月31日 |
社会保険料が発生する最終月 | 6月 |
例3.月末(7月31日)に退職
従業員が7月31日に退職した場合、社会保険の資格喪失日は翌月の8月1日です。
月末に退職した場合は、資格喪失日が属するのが翌月となるため、退職月までの社会保険料を支払わなければなりません。
退職日 | 7月31日 |
資格喪失日 | 8月1日 |
社会保険料が発生する最終月 | 7月 |
月末退職は2か月分の保険料をまとめて控除することもある
月末退職の場合、給与の締日と支払日のタイミング次第では、2か月分の保険料をまとめて控除することもあります。
たとえば、給与支給が「月末締め・翌月15日払い」の会社では、従業員が退職するのが6月の場合、翌月の7月に最後の給与を支払います。この場合は、6月分の社会保険料が発生しても7月の給与から控除すれば問題ないでしょう。
一方で「月末締め・当月20日払い」の会社では、退職月である6月が最後の給与支給となるため、6月に6月と5月分の保険料をまとめて控除する必要があります。
月末退職はメリット? デメリット?
月末に退職すると、給与から退職月の社会保険料も徴収されるため、従業員によっては負担が大きいと感じる人もいるでしょう。確かに、その時点だけを考えれば、月末退職では給与の手取り額が目減りしてしまいます。
しかし、社会保険への加入は任意ではなく義務であり、原則として保険料は毎月支払うものです。退職後も転職先で社会保険に加入したり、すぐに転職しなくても自分で国民健康保険や国民年金などに加入したりと、いずれにしても保険料を支払う必要があります。
長期的に見れば、月末退職が従業員にとって大きなデメリットになるとはいえないでしょう。
退職日と社会保険料控除の関係【覚え方】
ここまでの記事の内容を簡単にまとめ、退職日と社会保険料の控除の関係を整理します。
退職日が末日以外の場合 | 退職月の社会保険料は控除しない |
退職日が末日の場合 | 退職月の社会保険料も控除する |
基本的に退職月の社会保険料は控除しないものと理解し、退職日が6月30日や7月31日など月末日の場合は要注意と覚えておきましょう。
当月入社の社員が月の途中で退職したら社会保険料はどうなる?
企業に雇用される人の場合、社会保険の資格取得日は入社日となります。
従業員が入社してすぐに辞めてしまった場合でも、在籍日数にかかわらず社会保険料を徴収する必要があります。
また社会保険料は日割り計算されないので、たとえ在籍日数が1日であっても、1か月分の保険料を支払わなければなりません。
当月入社の人が月の途中で退職した場合、基本的には当月の給与から保険料を差し引きます。ただし在籍日数が少なく、日割りした給与よりも1か月分の保険料の方が大きい場合は、従業員から後日徴収することになります。
労務トラブルを防ぐためにも、後日徴収が必要なことは事前に伝えておきましょう。
月の途中で退職したら賞与にかかる社会保険料はどうなる?
従業員が退職する月に賞与を支給する場合も、基本的には毎月の給与と同じように考えます。
つまり、退職日が末日以外であれば、賞与に対する社会保険料は発生せず、末日であれば賞与からも社会保険料を控除する必要があります。
退職にともなう社会保険関係の実務
月の途中退職における社会保険料の扱いが整理できたところで、次に退職にともなう社会保険関係の手続きについて解説します。
従業員が退職する際は、さまざまな実務対応が必要です。企業が対応しなければならないことは主に3つあります。
- 健康保険証の回収
- 被保険者資格喪失届の提出
- 健康保険資格喪失証明書の作成
適切に処理することで、退職後の従業員に不安を与えず、企業としてもトラブルを未然に防げます。
3つの実務対応をおさえて、退職手続きをスムーズに進めましょう。
健康保険証の回収
健康保険証は退職日の翌日に失効し、病気やケガをしても使えなくなるため、確実に回収することが重要です。従業員に失効のタイミングを説明し、健康保険証を回収しましょう。
回収が終わらないと次の手続きに進めないため、退職日が休日の場合は事前回収や郵送などの対応を検討します。
健康保険証の回収が困難な場合は、代わりに『健康保険被保険者証回収不能届』の提出により対応が可能です。書類は日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。
参考:『被保険者証、資格確認書の添付を必要とする届書提出時に添付ができないとき』日本年金機構
健康保険証はマイナンバーと一体化される方針が打ち出されています。マイナンバーの管理方法とあわせて、今後の健康保険証の扱いを知りたい方は、以下の資料をご覧ください。
被保険者資格喪失届の提出
従業員が退職する際には、健康保険証と一緒に『健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届』を提出する必要があります。提出期限は資格喪失日(=退職日の翌日)から5日以内です。
様式は日本年金機構のホームページからダウンロードできます。必要事項を記入したうえで、管轄の年金事務所に提出しましょう。
なお従業員の状況に応じて以下の書類を添付します。
- 高齢受給者証
- 健康保険特定疾病療養受給者証
- 健康保険限度額適用・標準負担額軽減認定証 など
喪失届が受理されると『健康保険被保険者資格喪失確認通知書』が送付されます。
参考:『従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き』日本年金機構
健康保険資格喪失証明書の作成
従業員の求めに応じて『健康保険資格喪失証明書』を作成します。健康保険資格喪失証明書は、従業員が退職後に国民健康保険へ加入する場合に必要な書類です。
従業員が新たに転職先で社会保険に加入する場合は不要ですが、退職時に求められた場合には迅速に作成しましょう。
雇用保険の退職手続きについて確認したい方は以下の記事をご確認ください
月の途中で退職した従業員の社会保険料に関する注意点
最後に、月の途中で退職した従業員に関する社会保険料の注意点を、以下の2つのケースに分けて解説します。
- 従業員が任意継続にする場合
- 従業員が被扶養者になる場合
退職日が末日かそれ以外の日かによって、保険料の負担や計算方法が異なるため、事務手続きに混乱が生じないよう、理解する必要があります。対応を理解しておくことで、退職手続きを円滑に進めるために、確認していきましょう。
従業員が任意継続にする場合
任意継続制度を利用する際、退職日によって保険料負担が変わることを理解しておきましょう。
任意継続とは、従業員の退職後、最大2年まで会社の健康保険を引き続き利用できる制度です。保険料は全額本人の自己負担となりますが、扶養家族がある場合は、家族も引き続き会社の健康保険に加入できます。
従業員が任意継続にする場合、退職月の保険料負担は退職日によって異なります。
退職日が末日以外の場合 | 退職月は従業員が全額自己負担 |
退職日が末日の場合 | 退職月は会社と従業員が折半 |
従業員は仕組みを知らない可能性があるので、事前に説明しておくと親切でしょう。
任意継続の利点について確認したい場合は以下の記事もご確認ください。
従業員が被扶養者になる場合
退職後に従業員が家族の扶養に入る場合も、退職日によって保険料の扱いが異なります。
退職日が末日以外の場合 | 退職月の保険料は発生しない |
退職日が末日の場合 | 退職月の保険料は給与から差し引く |
末日以外に退職した方が、従業員としてはメリットが大きいので、事前に説明しておくとよいでしょう。
月の途中で退職した場合、当月の社会保険料は控除しない(まとめ)
社会保険料は、会社が当月分の保険料を翌月の給与から控除し、日割りではなく月単位で納付する仕組みです。
従業員が月の途中で退職した場合、退職月については社会保険料を控除する必要はありません。
一方で退職日が末日の場合は、資格喪失日が翌月1日になるため、退職月についても社会保険料が発生します。
担当者は、社会保険料の控除に関する基本的な仕組みを理解し、退職のタイミングにあわせて適切に対応することが大切です。
また、従業員は仕組みを理解していないことが多いため、保険料に関するトラブルを避けるためにも、事前に説明しておくとよいでしょう。
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