労働基準法における副業の取り扱いを解説|企業の対応や注意点

労働基準法における副業の取り扱いを解説|企業の対応や注意点

近年の政府の副業推進の流れを受け、多くの企業が「自社の副業ルールをどうするか」に悩んでいます。企業にも副業の可否についての判断や対応が求められているなか、労働者の副業に関する法的な取り決めはどのようになっているのか、気になる人も多いでしょう。

企業として副業を認めるべきか、禁止すべきかは慎重に判断する必要があります。

本記事では、労働基準法に基づく副業の法的な取り扱い、企業がとるべき対応策、副業を認める・禁止する際のポイントをわかりやすく解説します。

目次アイコン目次

    労働基準法における副業の取り扱い

    まず始めに副業にまつわる労働基準法上のルールを紹介します。

    • 就業規則で副業を禁止できるのか?労働基準法上問題はない?
    • 従業員が無断で副業している場合、どう対応すればいい?
    • 副業を認める場合、どのようなルールをつくればいい?

    以上のような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

    副業は原則として労働者の自由ですが、企業としては労働時間の管理や就業規則の整備が必要です。人事労務担当者がおさえておきたい2つの基本ルールを解説します。

    ルール1.労働者には副業の自由が認められている

    副業を禁止あるいは制限する労働基準法の規定は存在しません。人間には自分の好きな仕事を選ぶ自由があり、本業以外にどのような仕事にも従事できる権利があります。

    ただし、会社ごとの就業規則によっては、副業を禁止・制限している場合があります。法律ではなく、企業独自のルールによる制約です。法律上は副業が自由でも、就業規則に違反した従業員には、懲戒処分をせざるを得ないことがあります。

    ルール2.本業と副業の労働時間は通算して考える

    労働基準法には副業の自由を縛るルールはなく、労働者側に特別な対応が求められることはほとんどありません。

    一方で、企業が従業員の副業を認める場合は、労働時間の管理に注意する必要があります。なぜなら、労働基準法第32条と第38条1項に「本業と副業の労働時間は通算される」というルールが規定されているためです。

    (労働時間)
    第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
    ②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
    第32条によると、労働時間は特別な取り決めをしない限り基本的に「1日8時間・週40時間」が上限です。

    (時間計算)
    第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

    引用:『労働基準法』e-Gov法令検索

    第38条1項では、第32条のような労働時間に関する規定は、事業場が異なる場合でも通算して考えるものとしています。

    つまり、本業と副業で異なる就業先で働く労働者については、それぞれの労働時間を通算して「1日8時間・週40時間」の範囲に収めなければならないのです。

    通算ルールの注意

    本業と副業の通算ルールは、あくまでも企業に雇用される勤務形態に対して適用されます。個人事業主やフリーランスとして副業をしている場合は適用されません。

    たとえば、従業員が休日を使って飲食店でアルバイトをしている場合は、労働時間を通算する必要があります。

    一方、従業員が個人でのイラスト制作や動画編集などで報酬を得ている場合、作業時間を通算する必要はないといえます。

    参照:『副業・兼業における労働時間の通算について』厚生労働省

    労働時間の通算における基本ルール

    ここからはルール2で紹介した「本業と副業の労働時間は通算して考える」の具体的内容を実務的な観点も踏まえて解説していきます。

    本業と副業の労働時間を通算する際は、以下の2点に注意しなければなりません。

    • 所定労働時間:契約を結んだ雇用先の順に通算
    • 所定外労働時間(残業):実際に所定外労働があった雇用先の順に通算

    2つの基本ルールについて、以下で詳しく解説します。

    所定労働時間は契約順に通算

    労働者が複数の事業所で勤務している場合、所定労働時間は契約を結んだ雇用先の順に通算します。

    所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書などであらかじめ定められた、始業から終業までの時間です。

    たとえば、2020年からA社に勤務している人が2024年からB社でも働いている場合、所定労働時間の通算順はA社→B社の順です。

    仮に、それぞれの所定労働時間がA社6時間、B社3時間とすると、B社は法定労働時間を1時間超過していることになります。

    A社(先に契約)B社(あとから契約)合計労働時間考え方
    6時間3時間9時間B社にて1時間の法定労働時間超過

    参照:『副業・兼業における労働時間の通算について』厚生労働省

    所定外労働時間(残業)は実際に所定外労働があった順に通算

    労働者が複数の事業所で勤務している場合、所定外労働時間は実際に労働が行われた雇用先の順に通算します。

    所定外労働時間とは、所定労働時間を超える労働時間のことです。

    例として、A社→B社の順に契約を結び、所定外労働もA社→B社の順に行われた場合を考えてみましょう。この場合、労働時間を通算する順番は次のとおりです。

    1. A社の所定労働時間
    2. B社の所定労働時間
    3. A社の所定外労働時間
    4. B社の所定外労働時間

    たとえば、A社の所定労働時間が4時間、所定外労働時間が2時間、B社の所定労働時間が3時間、所定外労働時間が2時間だったとします。

    A社(先に契約)B社(あとから契約)労働時間の合計考え方
    所定労働時間4時間(a)3時間(b)4+3+2+2=11時間A社にて1時間、B社にて2時間の法定時間超過
    所定外労働時間2時間(c)2時間(d)

    (a)→(b)→(c)→(d)の順番で足すので、法定労働時間を超えた3時間のうち、1時間はA社、2時間はB社に属するものと考えます。

    労働時間の通算の具体的な考え方

    ここからは、労働時間の通算について具体的にどのように計算するのか、具体例をもとに解説していきます。なお、本業をA社、副業をB社として解説を進めます。

    例1.平日は本業でフルタイム勤務、土曜日は副業先で働いている場合

    A社で平日フルタイム(1日8時間)で働いている場合は、本業での労働時間だけで法定労働時間の上限に達します。

    そのため、副業先での労働時間はすべて法定労働時間を超過することとなり、土曜日の労働時間は法定外労働時間として扱われます。

    A社平日(月~金)フルタイム(1日8時間勤務)
    B社土曜日のみ勤務(1日6時間)=時間外労働

    企業側(B社)は、労働基準法違反にならないよう、労使協定(36協定)の締結が必要です。本業がフルタイムなら、副業はすべて時間外労働になると理解しておきましょう。副業を認める企業は、労働時間の上限管理に注意しなければなりません。

    例2.本業の所定労働時間が法定労働時間に満たない場合

    本業の労働時間が8時間より短い場合、日々の副業の労働時間と合計したうえで、どこで法定労働時間を超えるかを判断する必要があります。

    確認の手順は以下のとおりです。

    • 日の所定労働時間の超過確認
    • 週の所定労働時間の超過確認
    • 日の法定外労働時間の超過確認
    • 週の法定外労働時間の超過確認

    所定労働時間の確認方法

    月曜日と金曜日は、1日9時間労働となり、1時間ずつ法定労働時間(1日8時間)を超過しています。

    曜日A社 (本業)
    B社 (副業)
    日の合計週の通算
    6時間3時間9時間 (日8時間を1時間超過)9時間
    6時間2時間8時間17時間
    6時間6時間23時間
    6時間2時間8時間31時間
    6時間3時間9時間 (日8時間を1時間超過)40時間
    2時間2時間42時間

    また、週の合計労働時間は 42時間 ですが、1日の法定外労働として計算した時間(2時間)は除かれるため、法定労働時間(週40時間)を超過していません。

    法定外労働時間の確認方法

    火曜日と木曜日の「所定外労働時間」はすべて時間外労働となります(上の表から火曜と木曜の所定労働時間がすでに8時間に達しているため)。

    曜日A社 (本業)
    B社 (副業)
    日の合計
    2時間1時間3時間3時間は時間外労働扱い
    ※所定労働時間の実績だけですでに8時間到達
    1時間1時間1時間は時間外労働扱い※所定労働時間の実績だけですでに8時間到達
    1時間

    また、土曜日のA社の所定外1時間は、1日の法定労働時間を超えていませんが、次のとおり週40時間をすでに超えているため、法定外労働時間です。

    平日の所定労働時間の合計は38時間(9時間×2日から1時間ずつ除外)。土曜の「所定労働時間」2時間を加えると週40時間に到達します。40時間を超える土曜A社の所定外1時間は法定外労働とみなされます。

    参照:『副業・兼業における労働時間の通算について』厚生労働省

    特別な労働時間制度における労働時間の通算

    企業によっては、変形労働時間制やみなし労働時間制・フレックスタイム制 を導入している場合があります。

    特殊な制度を採用している従業員が副業をする場合、労働時間の通算ルールをどのように適用すればよいのでしょうか。

    それぞれの制度における労働時間通算の考え方と企業の対応ポイントを解説します。

    変形労働時間制

    変形労働時間制は1日や1週間単位で働く時間が決められており、すでに1日8時間・週40時間を超える「所定労働時間」が設定されている場合があります。

    基本的にフルタイム勤務と同様、通算ルールを適用して副業の労働時間を算出すれば問題ありません。

    たとえば、本業の「所定労働時間」が1日8時間を超える日は、副業の労働時間すべてが時間外労働となります。

    変形労働時間制を導入している企業でも、副業の労働時間を通算して違反がないか確認しましょう。

    変形労働時間制を詳しく知るには以下の記事もあわせてご確認ください。

    みなし労働時間制

    あらかじめ設定した「所定労働時間」を働いたと捉えるみなし労働時間制度も、原則的な労働時間の通算ルールを適用して考えます。

    副業で労働時間を通算する場合、実労働時間ではなく、みなし労働時間で通算するのがポイントです。

    たとえば、本業のみなし労働時間が1日8時間なら、6時間働いても9時間働いても、1日の労働時間は8時間として副業先の労働時間と通算します。

    みなし労働時間は基本的に残業という概念がないため、休日労働や深夜労働があった場合に、所定外労働時間をカウントします。

    みなし労働時間制における残業の扱いを知るには以下の記事もあわせてご確認ください。

    フレックスタイム制

    フレックスタイム制では、1日や1週間あたりの所定労働時間を定めないため、労働時間の通算では特別な考え方を用います。以下の例で考えてみましょう。

    • A社(本業):フレックスタイム制(清算期間内の平均1日7時間勤務)
    • B社(副業):平日2時間勤務

    フレックスタイム制における労働時間は、まず清算期間内で法定労働時間内に収まった時間を通算します。具体的には以下の手順でカウントしていきます。

    1. 清算期間内の法定労働時間の総枠の範囲までの時間に、B社での労働時間(所定労働時間+所定外労働時間)を通算する
    2. 本業A社で法定労働時間を超えて労働した時間数を通算する

    一方、通常の労働時間制は、仮の労働時間を設定して処理します。

    1. A社での所定労働時間を法定労働時間(1日8時間・週40時間)と仮定する
    2. 仮定したA社での所定労働時間に、自社の労働時間(所定労働時間+所定外労働時間)を法定外労働として通算する

    フレックスタイム制を詳しく知るには以下の記事もあわせてご確認ください。

    通算で法定労働時間を超える場合に必要な対応

    副業をしている従業員に限った話ではありませんが、本業と副業を通算した結果、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合、企業は適切な対応を取らなければなりません。

    副業をしている従業員の場合でも、法定労働時間を超えて働かせるには、次の対応が必要になります。

    36協定の締結・届出

    従業員に法定労働時間を超えて働いてもらうためには、36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

    自社だけで考えたときに法定労働時間を超える可能性がなくても、通算により超える場合は協定を締結しておきましょう。なお、36協定によって延長できる限度時間は、通算されないこととされています。

    割増賃金の支払い

    企業は、法定労働時間を超える労働に対しては、25%以上の割増賃金を支給する必要があります。

    副業の場合、法定労働時間を超えた労働をさせた企業が、割増賃金を支払う義務を負います。

    たとえば、本業が1日8時間勤務で副業が1日2時間勤務なら、法定労働時間を超えるのは副業の2時間です。副業先が超過時間に対する割増賃金を支払わなければなりません。

    本業先も副業先も、従業員の労働時間を正確に把握し、割増賃金を適正に支払うことが重要です。

    従業員が無申告で副業をしていた場合、未払い残業代のリスクが発生するため、企業は「副業申請の仕組み」を整えることが望ましいでしょう。

    参照:『副業・兼業における労働時間の通算について』厚生労働省
    参照:『法定労働時間と割増賃金について教えてください。』厚生労働省

    割増賃金の具体的な計算方法については以下の記事でご確認ください。

    就業規則で副業を禁止することは可能?

    従業員が副業を希望するケースが増えるなかで「自社で副業を禁止できるのか?」と悩む企業も少なくありません。

    原則として人には職業選択の自由があり、副業をする権利は誰にでもあります。むやみに就業規則で副業を禁止することは認められません。

    また、労働基準法上も「副業を一律に禁止する」ことを認める規定はありません。

    しかし、一定の条件を満たせば、企業は就業規則で副業を制限することが可能です。厚生労働省のガイドラインでは、次のような場合に限り、企業が副業を制限することを認めています。

    1.  労務提供上の支障がある場合
    2.  業務上の秘密が漏洩する場合
    3.  競業により自社の利益が害される場合
    4.  自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
    引用:『副業・兼業の促進に関するガイドライン』厚生労働省

    副業を一律に禁止することはできませんが、業務遂行に支障をきたす場合などは制限できる、ただし合理的な理由を用意しなければならないと理解しておきましょう。

    副業について就業規則に明記する場合は以下の記事を参考になさってください。

    従業員の副業を認める場合に注意したいポイント

    企業が従業員の副業を認める場合、適切なルールを設けなければ、長時間労働や健康リスク、労務トラブルにつながる可能性があります。そこで副業を認める際に企業が注意したい3つのポイントを解説します。

    副業の有無や労働時間を申告する仕組みを整える

    副業先での労働時間は、企業が直接把握できないため、従業員からの自己申告が必要になります。

    届け出制にするのか、事後報告制にするのかは、企業の方針にあわせて選択しましょう。

    従業員が申告しやすく、企業が把握しやすい仕組みを採用することが大切です。

    就業規則にも「副業をする(開始した)場合は会社に申告する」と明記することをおすすめします。副業先での働き方が変わる可能性もあるため、申告の頻度やタイミングも規定するとよいでしょう。

    従業員の健康に配慮する

    労働基準法により労働時間の制限が設けられているのは、長時間労働が労働者の健康に悪影響を及ぼさないようにするためです。

    副業をしている従業員は、ほかの従業員と比べて労働時間が長く、肉体的・精神的に負担がかかっている可能性があります

    労働安全衛生法の観点からも、企業は従業員の健康管理を行う責任があります。

    自社以外でも働いている従業員に対しては、とりわけ健康面に気を配り、必要に応じて指導やサポートができる体制を整えておきましょう。

    労働時間の適切な管理も従業員の健康管理の一環として考えることがポイントです。

    労働時間の管理を徹底する

    副業をしている従業員の労働時間は、副業先と合計する必要があるため、労務管理が複雑になりがちです。

    これからの時代、副業をする人はますます増えると予想されるため、企業は一人ひとりの労働時間を正確に管理できる体制を整えなければなりません。

    そのために勤怠管理システムを活用し、まずは自社の労働時間の透明性を確保しましょう。

    勤怠管理システムを使えば、残業実績などをリアルタイムで集計し、状況を把握できます。法定労働時間を超えそうな場合にアラートを出すことも可能です。

    未払い残業代や労働基準法違反を防ぐため、従業員の労働時間を適切に記録・管理しましょう。

    まとめ|副業の労働時間は本業と通算して考える

    労働基準法では、本業と副業の労働時間は通算すると定められています。自社での労働時間が法定内に収まっていても、副業と通算すると法定労働時間を超過する可能性は十分あります。

    企業は副業の申告を促すとともに、労働時間を的確に管理することが重要です。

    労働者の副業を禁止・制限する法律はなく、政府が副業・兼業を推進してることから、副業人口はさらに増えていくと考えられます。多様な働き方に対応できるよう、企業ごとの方針を明確にし、認めるのであれば勤怠管理や労働時間の通算を把握しやすい体制を整えましょう。

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