職場で暴力を振るった従業員の処分方法とは? 対処法と注意点を解説
暴力事件が職場で起きたとき、どのように対応すべきか困っていませんか。人事労務担当者として事態の収拾に追われることもあるかもしれません。
本記事では、職場の暴力行為への対処法や注意点を解説します。
暴力とはいかなくても、従業員を精神的に追い詰めるメンバーへの対処法は、以下の記事をご確認ください。
クラッシャー上司とは【チェックリストあり】特徴や口癖、企業向けの対策を解説
部下からの逆ハラスメント(逆ハラ)とは【事例】何が該当する?原因・対策と発覚時の対処手順
職場での暴力や暴行・傷害は懲戒処分の対象となる?
職場での暴力や暴行・傷害は懲戒処分の事由に該当し、内容によっては懲戒解雇や諭旨解雇の対象となります。社内で暴力行為があると、ほかの従業員が恐怖を感じ、職場の雰囲気や秩序が乱れてしまいます。
他人に暴力を加える行為は、たとえケガを負わせなかったとしても暴行罪に該当するおそれがあります。万一、相手にケガを負わせた場合は、傷害罪として15年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科されるケースもあります。
暴力・暴行などの傷害事件は、社会的にも大きな制裁を受けるものであることを踏まえて、懲戒処分を検討しなければなりません。
職場での暴力・暴言で懲戒処分を検討すべきケース
暴力や暴言がどのようなケースで懲戒処分の対象となるのか、具体例や基準を紹介します。とくに立場が変わると対応方法が異なるため、それぞれの注意点を知ることが重要です。以下では3つのケースについて解説します。
- 上司→部下
- 部下→上司
- 同僚同士
上司の部下に対する暴力・暴言
上司が優越的な地位を利用して部下に暴力をふるったり、暴言を吐いたりするパワハラ行為は、業界や業種を問わず発生しています。
具体的には、以下のような行為です。
- 指導や指示にしたがわないことを理由に殴ったり、ものを投げつけたりする
- 能力やスキル不足の部下を馬鹿にしたり、ののしったりする
たとえ指導する目的で行われたとしても、上司の部下に対する暴力や暴言は決して見逃してはなりません。
部下の上司に対する暴力・暴言
部下が上司に対して反抗的な態度をとり、暴力をふるったり暴言を吐いたりするケースもあります。
社長や上司などが正しく注意や指導をした場合、部下は内容にしたがわなければなりません。以下のような行為は「業務命令違反」とみなされるため、大きな解雇事由となります。
- 上司に対して大声で抵抗する
- 上司に対して反抗的な態度をとって無視をする
上司から部下への暴力と同じように、部下から上司に対する暴力についても、懲戒処分を含めた厳正な対処が求められます。
同僚同士の暴力・暴言
上下関係のない同僚同士で、相手を罵倒したり、口論になったりするケースもあるでしょう。暴行罪や傷害罪は成立しませんが、大きな争いに発展しないよう注意しなければなりません。
従業員がほかの従業員に対して殴る・蹴るなどの暴行を加えたり、お互いに暴力を振るったりしてしまうと、暴行罪や傷害罪が成立するおそれがあります。また、私的な恨みに基づく暴行によって負ったケガに対しては労災の適用がありません。
ささいなことがきっかけであっても、互いに遠慮なく接し合える同僚同士だと暴力や暴言がエスカレートする場合もあります。当事者たちから詳しく事情を聞いたうえで、企業として必要な対応を考えましょう。
職場における暴力・暴言が発覚した際にやるべきこと
職場での暴力や暴言事件に対処することは、企業としての責任だけでなく、職場環境の健全性を守るうえで重要です。発覚後は迅速に対処しないと労務トラブルが深刻化し、訴訟問題に発展する可能性もあるため注意しましょう。
そこで本項では職場での暴力・暴言に対する具体的な対応策を、以下の3つの観点から解説します。
- 暴力トラブル対応手順の基本
- 当事者への接し方
- 企業の責任、処分の基礎知識
対応手順は大きく分けて以下の3つのステップから構成されます。
- 事実関係の把握
- 被害者へのケア
- 加害者への処分
順を追って詳細の対応手順を確認していきましょう。
ヒアリングや資料チェックによる事実関係を把握する
職場における暴力や暴言が発覚したら、関係者にヒアリングをして事実関係を把握することから始めます。当事者だけでなく、目撃者の証言も集めることがポイントです。
ヒアリングをする際は、以下のポイントをおさえましょう。
- 暴力や暴言は本当にあったのか
- 暴力や暴言の具体的な内容(いつ、どこで、どのような行為があったかなど)
- 被害者と加害者の関係性
- 目撃者の有無
- 暴力や暴言に至るまでの経緯
- 現在も暴力や暴言は続いているのか
- 被害者の心情(処罰を望んでいるのか、一緒に仕事を続けて問題ないかなど)
- 加害者の心情(反省の有無や反省の程度など)
関係者たちから、できる限り詳しい状況を聞き出すことが重要です。加害者と被害者の会話の内容や、メールやメッセージなどのやり取りが残っている場合は、内容も精査して事実関係を正確に把握するよう努めましょう。
被害者へのケアを行う
暴力や暴言を受けた被害者に対して、精神面でのケアを行う必要があります。原則として、被害者と加害者を接触させないようにするのが望ましいでしょう。
被害者のダメージが大きいと、休職や離職につながるおそれもあります。
大切な従業員を手放さないためにも、被害者と加害者を引き離し、被害者の気持ちが落ち着くまで自宅での静養をすすめるなどの対策が必要です。
配置転換や加害者に自宅待機命令を出すことも検討しましょう。配置転換の検討には、人事データに基づく事前シミュレーションが不可欠です。勘に頼らない配置シミュレーションはタレントマネジメントシステムの活用をご検討ください。
→配置転換をシミュレーション「One人事」資料をダウンロード
加害者への処分を検討し、実施する
加害者に対しては、暴力や暴言を理由に、懲戒処分を含めた厳しい対応を検討します。
懲戒処分には、以下の種類があります。
懲戒処分の種類 | 内容 |
---|---|
譴(けん)責・戒告 | 従業員に口頭や文書で注意を与える処分。始末書の提出を求めるケースもある |
減給 | 従業員の給与を減額する処分 |
降格 | 従業員の地位や役職を、より低いものに引き下げる処分 |
出勤停止 | 従業員の出勤を停止し、停止期間中の給与を支給しない処分 |
諭旨解雇 | 従業員の自発的な退職を勧告する処分。従業員が拒否した場合は、懲戒解雇となるケースが多い |
懲戒解雇 | 従業員を強制的に解雇する処分 |
就業規則に定められているルールにしたがって、暴力・暴言の程度にふさわしい処分を選択しましょう。
職場の暴力事案に対する懲戒処分の進め方
職場で暴力事件で加害者への処分が必要と判断された場合、決定に悩むこともありますよね。いくら加害者だからといって、自社の従業員であることには変わりありません。厳正でありながら慎重な態度で処分を進める必要があります。
暴力の被害者にも配慮しつつ、トラブルを収束して健全な職場を取り戻すまでの手順は、大きく分けて5つの手順に分けられます。
- 就業規則の確認
- 適切な手続きの実施
- 妥当な処分の判断と実施
- 再発防止措置の検討
- 自宅待機命令・退職勧奨
適切な手順に沿うことで、法的リスクを抑え、事態の収束と再発防止につながるため、一つずつ確認していきましょう。
1.就業規則が有効であるかを確認する
懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分の種類や懲戒事由について明記されていなければなりません。有効な就業規則がない場合は、懲戒処分に関するルール自体が存在しないことを意味します。
従業員の暴力や暴言が、自社の就業規則に記載された懲戒処分のルールにあてはまる行為であるかを確認しましょう。
2.適切な方法で社内手続きを進める
懲戒処分をする前に、当該従業員に対して弁明の機会を与える必要があります。
弁明の機会とは、企業から従業員に対して懲戒処分を検討している旨を伝え、そのうえで従業員に自身の言い分を伝える場を与えることです。
3.妥当な懲戒処分を実施・公表する
暴力や暴言の内容によって、妥当な懲戒処分を下し、公表します。
万が一、暴力や暴言の程度に見合わない重い処分を下してしまうと、労働契約法第15条に定められている「懲戒権の濫用」として無効となるおそれがあります。
過去の社内における処分の事例や裁判例などを参考にしながら、懲戒処分の可否や種類を適切に選ぶことが大切です。
再三注意したにもかかわらず問題が解決しない場合や、暴力や暴言がエスカレートしている場合は、解雇を検討するケースもあるでしょう。
解雇には、大きく分けて以下の3種類があります。
解雇の種類 | 内容 |
---|---|
普通解雇 | 従業員の能力不足や勤怠不良など、企業との相性が悪いことを理由とした解雇 |
整理解雇 | 余剰人員を整理するために行う解雇 |
懲戒解雇 | 横領やセクハラ、犯罪行為などに対する制裁のための解雇 |
暴力・暴言を理由とする解雇は「普通解雇」と「懲戒解雇」のどちらかになります。ただし、懲戒解雇の方が普通解雇よりも不当と判断されやすいため、懲戒解雇に相当する場合でも、あえて普通解雇にとどめることも少なくありません。
また、解雇する前には「退職勧奨」を行うのが一般的です。退職勧奨は、従業員の同意を得て雇用契約を終了させる方法であり、一方的に雇用を終了する解雇よりも法的なリスクが低いとされています。解雇はあくまでも最終的な手段と捉えておきましょう。
4.再発防止措置を検討する
加害者である従業員に対して懲戒処分を行うだけでは、同様の暴力・暴言にまつわるトラブルが生じるおそれがあります。そのため、企業として再発防止に向けた各種施策を検討・実施していくことも重要です。
5.自宅待機命令や退職勧奨を行う際の注意点
暴力・暴言トラブルの加害者に対して、自宅待機命令や退職勧奨を検討することもあります。
自宅待機命令は、暴力や暴言の事実調査を目的とした場合に限り、企業の持つ指揮命令権の一環として認められる傾向にあります。不用意に長期間にわたって自宅待機を命じてしまうと、違法とみなされる場合もあるため注意が必要です。
退職勧奨を行う際は「退職するように強制している」と判断されないように配慮しなければなりません。仕事が全くない部署へ異動させたり、退職を強要する態度で接したりしないように気をつけましょう。
職場における暴力事案の防止方法
職場での暴力や暴言を防ぐためには、事後対応だけでなく、予防策に注力することが重要です。問題が起きてから対応するより、トラブルの発生を未然に防ぐ取り組みは、従業員の安全を守るだけでなく、企業のコストやリスクの軽減にもつながります。
以下の3つのポイントを中心に、職場での暴力事案を防ぐための実践的な方法を解説します。
- ハラスメント研修の実施
- 社内の相談窓口の設置
- 問題社員を採用しない取り組み
具体的な取り組みを理解し予防策を講じることで、安心して働ける職場づくりに努めましょう。
ハラスメント研修を実施する
暴力や暴言は、従業員のハラスメントに対する意識の低さが原因となっている場合があります。「モラハラやパワハラは断固として許さない」という考えを社内に浸透させるためにも、ハラスメント研修や勉強会の実施を検討しましょう。
研修はパートやアルバイトを含む全従業員を対象に行うほか、管理職や中間管理職など階層別に内容を変更するなどの工夫も必要です。定期的に研修を実施できるよう、時期を検討しましょう。
社内に相談窓口を設置する
職場における暴力や暴言などのハラスメントについて、従業員が信頼して相談できる体制を整備します。企業内に設けられた相談窓口よりも、外部機関に設けられた相談窓口の方が相談しやすいという場合もあります。
プライバシーを保護するための措置を講じて、面談形式だけでなく電話やメールといった複数の方法で相談を可能にし、多くの人が相談しやすい工夫をしましょう。
問題社員を採用しない
暴力や暴言にまつわるトラブルを回避するためには、問題社員(モンスター社員)を採用しないことが重要です。しかし面接時に問題社員を判断するのは容易ではありません。
中途採用では求職者の職歴を確認するでしょう。一概にはいえませんが、転職回数が多く就労期間が短い職歴は、過去に職場でトラブルを起こした可能性も否定はできません。
職歴で気になるポイントがあれば、面接時に踏み込んで質問してみるのもおすすめです。
暴力・暴言で解雇するときの会社側の注意点
職場で暴力や暴言が発生し、加害従業員に厳しい対応を検討する際は、法的および実務的な観点から慎重な判断が必要です。適切な対応を取らないと企業側にリスクが生じる可能性があります。
暴力や暴言を理由に従業員を解雇する場合、とくに注意したいポイントは以下の3つです。
- 警察に通報するべきかの判断
- 企業として問われる責任の範囲
- 職場外でのトラブルへの対応
被害が大きいと職場だけで解決をはかるのは難しい一方、従業員同士のトラブルであれば、職場外で起こった事案も対処が必要なケースもあります。トラブル収束のポイントを確認していきましょう。
警察に通報するかを判断する
暴力や暴言の程度があまりにもひどい場合や、被害の程度が大きい場合は、暴行罪や傷害罪に該当するおそれがあります。
社内で暴力や暴言にまつわるトラブルが発生したら、警察への連絡を検討します。ただし被害届を提出するかは、被害者にあった従業員次第です。本人の心情や意思を尊重しつつ、相談しましょう。
企業にも一定程度の責任を問われることがある
社内で暴力事件や暴言によるハラスメント行為が発生したとき、対応の不十分さや放置が原因と判断される場合があります。「使用者責任」や「安全配慮義務違反」に問われ、被害者から慰謝料や損害賠償を請求をされる事例もあるため責任のある対応を心がけましょう。
職場以外での暴力や暴言も処分の対象になる
職場以外で起きた暴力や暴言も、従業員同士で発生した場合はパワハラ行為に該当し、懲戒処分の対象となります。
トラブルが職場の外で発生した事案でも社内と同様に、当事者にていねいな聞き取りをして、事実確認を行います。
職場での暴力事案を防ぐために環境整備を
職場での暴力や暴言は、従業員の安全を阻害し、職場環境を悪化させる重大な問題です。発生した場合は、担当者として適切に対処することが求められます。詳細な事実確認と被害者へのメンタルケアを行い、加害者への適切な処分を決定します。必要に応じて配置転換も検討しましょう。
ハラスメント研修や相談窓口の設置、採用段階でのチェックなど、対策することで、トラブルを未然防止にもつながります。
暴力や暴言が職場で起きないようにするために、今一度、社内の仕組みや運用を見直してみましょう。